262 花嫁の憂鬱
子供の頃はよくからかわれて、いじめられるような性格だった私は、常に地味に大人しく振舞うようにしていた。それが、こんなことになるなんて……。
「しっかりしなさい。今日ばっかりは、あんたが主役なんだから」
母親の言葉に、私は純白のドレスを着ながらも、憂鬱な溜息を漏らす。
「う……ん」
結婚式は、何があったか覚えていない。教会で、ただ父親にエスコートされ、テレビドラマを見ているかのように、自分自身のこととして実感が湧かなかった。
「もう。大丈夫?」
「おなか痛い……」
「薬はさっき飲んだから大丈夫よ」
「だって、あんなにたくさんいるなんて……」
教会にいた人数を見て驚いた私。それより多く、これから始まる披露宴では集まるはずだ。
地味に生きていた私が選んだ男性は、たまたま大会社の御曹司。彼のことはもちろん好きだし、地味な私でも、彼は昔ながらの一歩引いた日本女性をイメージするように気に入ってくれているみたい。
でも、大会社の御曹司となれば、結婚となると大変だった。うちは中流家庭で、それもあちらの家族はわかってくれているけれど、披露宴に呼ぶ人数はケタ違いだった。
「あれがジュニアのお嫁さん?」
「なんか暗そうな子ね」
「なんであんな子が……」
「あれで次期社長の妻が務まるのかしら」
本当にそんなことを言われているかはわからないが、ネガティブな私は、人目を気にしてしまう。
「そろそろ時間だそうです」
そう呼びに来てくれたのは、新郎である彼自らだった。
「まだ緊張してる?」
「う……ん」
「大丈夫。ニコニコ笑って見てればいいんだ。俺たちがやることなんて、あとは入場と退場とケーキ入刃くらいなもんだろ。あとは運ばれてくる料理を食べてりゃいいんだよ」
優しいまでの彼の笑顔に、私は少しだけ安心しながらも、やはり思考はネガティブになる。
「でも、ただ歩くだけで転んじゃうかもしれない。みんなの目が気になるし……」
「転びそうになったら俺が助けるし、もしそんなことがあっても、みんな笑い話として会を盛り上げるだけだよ。今日の主役は俺たちだ。堂々としてればいいよ」
「笑われるのが嫌なのに」
「じゃあ、俺がお姫様だっこで入場してあげようか?」
「もう!」
「大丈夫。何か言いたいやつには言わせておけよ。俺が選んだのはおまえなんだし、嫉みや嫉妬なんて、女冥利につきるじゃん」
歯を見せて笑う彼の顔を見ていたら、自分のネガティブさが馬鹿馬鹿しく思えた。
「うん」
「よし。じゃあ、行こう」
やっぱり会場に入るとあまりの人数に恥ずかしかったけど、懐かしい友達の姿も見えて、私はやっと安心出来た。
スポットライトが、私たちを照らし出す。今日の主役は私たち。私は初めて、人に注目される快感を得ていた。