表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
258/371

258 カーテンの向こう側

 引きこもって三年の春がきた。

 大学受験に失敗したのを機に、僕は一日のほとんど部屋で過ごす。兄弟もいるが、ここ一年ほど母親以外と顔を合わせたこともない。トイレと風呂以外は、いつも部屋の中。

 最初の頃は、兄弟たちが無理やり外へ出そうとしたりしたが、母親は僕に甘いから、僕は今も守られている。

 そんな僕に期待する人など、もう誰もいない。


「ケンちゃん。ごはん置いておくね。あと、今日から外壁修理の人が来るから、びっくりしないでね」

 母親の言葉に返事もせず、足音が去ったのを待って、僕は盆に置かれた手料理を部屋の中へと入れた。気が付けば、激太り。こんなことも手伝って、僕が外に出ないことに拍車をかけている。

 その時、鈍い鉄骨の音が外でした。外壁修理の人と言っていたから、足場でも組んでいるのだろう。

 永遠に開けられることのないカーテン越しに、僕はそう納得をして、空になった皿を廊下に出した。


 ガガガガガ。ゴッゴッゴッゴッ……と、壁の向こうで音がする。

 数日間、そんな音に悩まされ、僕はヘッドフォンの音を最大にしてネットゲームを楽しんだ。

「静かになったな……」

 数日目の朝、毎日続いていた工事音が止み、あまりの静けさが異様で、僕は思わずカーテンを開けた。

 何年ぶりに開けただろう。たった十センチほど開けただけなのに、眩しいくらいの日差しが入った。

 そして僕の目に飛び込んで来たのは、まだ組まれたままの足場となる鉄骨の向こうに広がる、庭の景色だった。

 ゴクリと、僕は思わず息を呑む。

 手入れされた庭。太陽に輝く木々。鮮やかなつつじ。芝生に見える草花。当たり前に見ていたはずの僕の家の庭が、改めて見るとなんと美しい世界なのか。

「ケンちゃん。起きてる? ごはんよ」

 その声に、開きかけてた僕の心はしぼんだ。

 相変わらず返事もせず、僕は俯き、カーテンを閉める。

 こんなんじゃいけない。と思ってはいても、突然出たら家族も驚くだろうし、きっかけがない。

「う……ん」

 母親にその声が届いたかはわからないが、僕はその後、時々カーテンを開けるようにした。

 最初は十センチ。次に二十センチ。やがて母親か誰かが、僕の部屋のカーテンが開いていることに気付くだろう。だからといって何が起こるとも言えないが、それは僕にとって、少し大人になるってことだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ