257 白い花かんむり
「エイミー!」
ジャンの声が聞こえる。でも、決して顔なんか見せないわ。こんな涙にまみれた醜い顔を、最後だというのに見せられない。
私は腰の丈まで伸びた草むらに寝転がって、空を涙で滲ませた。
「エイミー!」
院長先生の声も聞こえる。でも、誰が呼んでも行かないわ。夜になったらちゃんと戻るから……それまで放っておいて。私に時間をちょうだい。
私は目を閉じて、思い出に浸る。
ジャンは同じ時期にこの孤児院にやってきた。私たちは捨て子。男女の差もなく同じように育って、大きくなったら結婚して、この孤児院に恩返ししようって決めていたのに、急にジャンの里親が見つかった。ジャンは勉強が出来たから。
私は夜になって、やっと孤児院に戻った。
「エイミー! 何処へ行っていたの? ジャンはもう行ってしまったわ。残念そうにしていたわよ」
院長先生にそう言われ、私は腫らした目で笑う。
「ごめんなさい、先生。でも、これが別れじゃない。そうでしょう? ジャンと別れの挨拶なんか交わしたくなかったの」
「まったく、あなたったら……」
そう言いながら、院長先生が白い花の花かんむりを差し出した。それは、前に一度見たことがある。
「これ……?」
「ジャンがあなたにって。手紙を書くと言っていたわ」
それを聞いて、私は花かんむりを受け取り、もう一度孤児院を出て行った。だがもう、ジャンの姿はもちろんない。
「ジャン……」
私の脳裏に、小さかった頃の記憶が蘇る。
「エイミー。大きくなったら、僕のお嫁さんになってね」
小さなかったジャンが、そう言って同じ花かんむりをくれた。
あれ以来、ジャンが花かんむりを作っているところなど見たことがないが、今になってこれをくれたということは、あの時の約束を覚えていたからだと信じたい。
「ジャン……いつかまた会えるよね」
張り裂けそうな寂しさを押し込めて、私はジャンとの再会を生きる支えにすることに決めた。
しばらくして、ジャンから手紙が来た。新しい生活のことが書かれていたけれど、相変わらず優しい文面。
私は照れ屋だから「元気でね。お互い頑張りましょう」とだけ書いて、院長先生の手紙と一緒に送ってもらった。あの白い花を押し花にした栞とともに……。