255 一夜の引力 (美紀目線)
その日、海のそばにある田舎町で、高校の同窓会が行われた。
卒業してから一度も開かれたことのない同窓会に、私は直前まで行かないと決めていた。
(修二――)
高校から大学まで付き合っていた彼氏。何度も笑い合ったり傷つけ合ったりして、結局別れてしまった。あれから何人か別の彼氏も出来たけれど、先日別れたばかりの私は、大好きだった修二に求められれば、今は歯止めがきかないかもしれない。会えばきっと蘇り、求めてしまう。でも、会いたい――。
私は複雑な気持ちで、同窓会会場のドアを開けた。途端に飛び込んできた、懐かしい顔。そのたった一人に、私の目は奪われた。
(ああ、やっぱり来ていた。懐かしい顔。会いたかった……)
「美紀。元気してた?」
友達の言葉に、逸らせなかった目を逸らした。
いいの。同じ空間で時を過ごせれば。話してしまったら、きっと思いが溢れ出す。それなのに――。
「二次会行くの?」
たった一言、彼がかけた言葉に、私は絡めとられた。
本当はずっと会いたかった。話したかった。
二次会へ行くのを断って、私たちは海辺のテラスへと向かう。高校時代は学校帰りによくここへ立ち寄った。真夜中に近い今では明かり一つないけれど、月明かりが異様なまでに照らしてくれる。
お酒の力も手伝ってか、私が普通というものを心掛けたからか、会話は驚くほど弾んだ。変わらない笑顔の彼。私がこうして明るく接していれば、また元のように笑い合えるんだってことを知った。
「あ……もう終電ないな」
突然言った彼の言葉に、私は赤くなる。本当はとうに気付いていた。でも、言い出せなかった。帰りたくないから。
「どっか……ファミレスでも入ろうか」
その言葉に、私は少し寂しさを覚える。軽い女だって言わないでほしい。でも期待してた。言い寄られること。一夜だけでいいから、昔みたいに戻れる日が来るんじゃないかって。そうしたらきっと区切りをつけて、彼のことなんか忘れて、別のところへ羽ばたけるかもしれないのに。
「あー、ううん。駅に行くわ。始発までベンチで仮眠する。このところ仕事が忙しくって、もう限界」
私はそう言った。半分ホントで半分ウソ。半分本音で半分誘った。
「じゃあ……ホテルでも行く?」
狙ったまでの言葉を彼が言ってくれたので、私は逆に恥ずかしくなって躊躇する。でももう、なんでもよかった。
「うん……」
やがて辿りついた近くのラブホテル。シャワーを浴びながら、いろいろなことを思い出す。
ためらってはどうでもよくなり、嫌な過去を思い出しては素敵な過去も思い出す。でもやっぱり、今でも大切な人――。
シャワールームから出ると、さっきまでいたはずのソファに修二の姿はなかった。怖気づいて帰ったのかと思ったけど、ベッドの端には寝息がある。
私はほっとしたような残念なような気持ちになって、そっと笑った。
「いくじなし」
そんなところも、変わらない彼。
私ってそんなに魅力がないかしら……と、少し落胆しながら、私はそっと彼の横に身を寄せたが、彼が起きる様子もなく、半分ホントだった仕事の疲れも限界で、そのまま無防備に眠ってしまった。
目覚めのキスでもねだろうかしら――いや、虚しいばかりだわ。捨てた恋なんて拾うものではない。
朝方、彼の微笑みの中で目覚めた私は、この恋がやっと終わったことを悟った。