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245 RUN -闇夜のワンショット-

「ふう……」

 死んだ街の路地裏、一人の男が息をついた。

 月明かりだけが照らす真っ暗なその場所で、男の目が一瞬ギラリと光る。

 男はコードネーム・ランと呼ばれる、世界中から指名手配が張られている超一流のスナイパー、殺し屋だ。

「キリがねえな……」

 ランはそう言いながら、愛銃のマグナムに弾を込める。

 今日の乱闘は不意に起こったもので、偶然居合わせたマフィアがランの首を狙って攻撃をしかけてきたことにある。

 残りの弾数は僅か六発。その数に、今日は数十人単位で倒したことが窺える。

「出て来い! こっちはまだまだ臨戦態勢だぞ」

 敵の声が聞こえた。とはいえ、敵の数もぐんと減り、気配としては十人程度である。

 決闘とあらば瞬時にボスをやれたものの、今回は分が悪い。まあ、たまには全員を相手にしても良いという気まぐれからもきているが……。

「お呼びがかかっちゃ仕方ねえな……」

 ぼそっとそう言いながら、ランは空を見上げた。

 月明かりが翳りはじめ、雲がかかってきた。

(今しかない――)

 そう思うと同時に、ランは表通りへと駆け出した。

 途端、銃弾の嵐が飛ぶ。だがその嵐も、ランの応戦で確実に減ってゆく。

(一発、二発、三発……)

 自分の残り弾を数えながら、ランは遂に敵であるマフィアのボスに銃口を向けた。

「ようやく一人になったな。久々に手間取ったが……息抜きと思えばたまにはいい。完全攻略ってやつだ」

 眩しいほどの月明かりが戻り、不敵な笑みを浮かべたランがそう言った。

 その顔はまだ青年で、甘いマスクが目を引く。

「何を……こちらも壊滅状態の痛手だが……それでこそ世界トップのスナイパー、コードネーム・ランだ。こちらも十分な準備が出来れば、もう少し分がよかったものを……取引をしないか」

 よくある話に、ランは一瞬眉を顰めた。

「自分だけ助かりたい気持ちもわかるが、こっちも急に仕掛けられて気が立っている。取引には到底応じられないな」

「まあそう言うな。金でも何でも、好きなだけ用意するぞ。こちらの状況も見てくれ。今や残るのは私一人。それで何が出来るというんだ」

「おまえが死んで喜ぶやつなら、いくらでもいるだろう」

 ランの銃口は、どれだけ口にしていても、少しもぶれない。

「しかし……よく撃ったものだな。弾は残っているのかね?」

 マフィアのボスは、静かにそう口を開く。

「お察しの通り、あまり持ち歩いてはいないものでね」

「そうだろうな。弾が入っていない」

 ボスの目に映るランの愛銃には、空の薬莢やっきょうだけが見える。それは弾がないことを意味した。

「さすがだな。俺がこんな無駄話をするのも珍しいのだが……弾がないということを合わせれば、容易に気が付く、か」

「あいにくだが、私はまだたくさん弾を持ち合わせているよ。引き金を引けばいいだけだ。この至近距離、外れることもあるまい」

「では引けばいい。遠慮はいらない」

 この状況で、ランの態度はギリギリの心理戦を楽しんでいるかのように思えた。不敵な表情はさっきと変わらず、少年のように美しい瞳が、ボスの姿だけを捉えているのだ。

「撃てよ」

 ランのとどめ言葉に触発され、ボスは冷や汗を流しながら、その引き金を引いた。

 次の瞬間、ボスはランの顔を見つめながら倒れ込んでいた。

「どうして……」

 ボスの言葉を聞きながら、ランは愛銃のシリンダーから薬莢を出す。

「答えは簡単さ。あんたへの一発は、撃鉄ハンマーを起こしておいたからってだけ。ぶれたくなかったんでね。簡単な問題だろ……って、もう聞いてないか」

 静まり返った闇夜の街角。死体が転がる真ん中で、ランは煙草に火を付けた。

 ここに生を受けているのは、自分ただ一人という異様な光景に、ランは自分自身を嘲笑うかのように笑みを零す。

「今日はこれから丸腰だ……」

 足音一つ立てず、ランは静かにその場を立ち去った。

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