240 後宮宵話
生まれる前から、私の運命は決まっていました。
遥かなる時代から、この国には男尊女卑という風習が当たり前のようにあり、一夫多妻はもちろん、女に人権などありません。ただ強く偉い男に何人もの女が仕える、そんな時代が当たり前にあったのです。
男で生まれたならば、階級や派閥の中でそれは大変な思いをしたかもしれませんが、女で生まれたら生まれたで、品物のように扱われるだけなのです。
私の場合は、身分ある家柄に生まれたのは不幸中の幸いでしょうが、身分低くとも領主に嫁がされたり、今の行く末とそう変わらないことでしょう。
「帝の後宮に入れるというのに、なにをそのようなご不満な顔をしておるのじゃ」
母のいない私に、育ての母というべき叔母上がそう言いました。
「不満など……嬉しさで胸がつかえているだけでございます」
表情のない私は、ただ用意された言葉を心なく口にしました。どう抗っても、私は後宮へ入らねばならない。帝の女房になれることは名誉なことなのかもしれませんが、ただ決められた道を歩んでいくことに、私はただただ絶望していたのです。
「もう住み慣れたこの里に戻ることはないのでしょうか。もう里の皆にも会えないのでしょうか」
そう呟いた私に、叔母上は口曲げる。
「あんたはそこいらの姫君ではありません。上臈の家柄。正妃にならずとも格上なことを忘れてはいけません。里の格下の者たちよりも、帝のことだけを考えていればよろしい」
帝とは何度もお顔を合わせていますが、年は近くもなく、お相手が嫌というわけでもありませんが、それよりもただ品物として扱われる自分が嫌なだけなのです。
「そろそろ……」
という言葉に、私は体を強張らせる。
ただ、どんなに泣いても、どんなに心を失くしても、私が品物であることには変わりないのです。それを今後受け入れて帝にどれだけ愛されるのか、腹を括るには、まだまだ時間が必要でしょう。
私には、運命を受け入れることも、抗う術もないのです。