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239 あしたてんきになあれ

 僕は小さな手によって生まれた。


「カヤ。お風呂入っちゃいなさい」

「はあい」


 カヤちゃんっていうのか。

 その小さな手の主は、僕に顔を書いてくれて、僕はやっとその主の顔を見ることが出来た。


「あーあ。マジックだから滲んじゃった。でもいいよね」


 カヤちゃんはそう言うと、僕に向かって手を合わせる。


「てるてる坊主さん、お願い! 明日天気にしておくれ」


 そう言うなり、カヤちゃんは僕を縁側に吊るした。


「カヤ! お風呂!」

「はあい、今行く!」


 お母さんの言葉に、カヤちゃんは慌ててその場から去っていった。

 明日は遠足だというのを、僕は自分が作られていく間に聞いている。

 神様、あれだけ心を込めて僕を作ってくれたカヤちゃんのために、明日どうか晴れますように……!

 僕は全身全霊をかけて祈った。


 次の日――。

 天気はあいにくの雨。小雨ではあるが、僕は少し責任を感じて外を茫然と眺めている。


「せっかくてるてる坊主作ったのに……」


 カヤちゃんの言葉が、痛いくらい胸に刺さる。

 ごめんね……僕の力不足だ。

 僕は何度も何度も、心の中で謝った。でも、天気は晴れてくれない。


「行ってきます……」


 そのままカヤちゃんは、口を尖らせて家を出て行った。

 神様、神様、神様――僕の命は、今日で終わるでしょう。僕はなんのために生まれてきたのですか? あの子のために、僕に何が出来ますか?


 それから数時間後、遠足のバスが目的に着いた頃、天気はすっかり晴れていた。

 よかった……ありがとう、神様。


「ありがとう。てるてる坊主さん」


 小さな手の中で、僕はそんな声を聞いた。


 こちらこそありがとう――僕を作ってくれて、ありがとう。

 遠のく意識の中で、僕はカヤちゃんに微笑みかける。

 小さな祈りではあるけれど、君がまた心を込めて僕を作ってくれたなら、僕は何度でも祈るよ。君の心が晴れるように――。

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