235 しがらみの王子
「時代は変われど、一国の王子とて望む相手と結ばれるものではない」
そう言った王子は、表情を失くしたまま、一番の家臣である青年にそう言った。
王子はまだ十六歳になったばかりだが、十六年の間で、嫌というほど王家のしがらみにぶち当たってきた。
つい最近も、執心していた女性と無理やり引き裂かれたばかり。別れの挨拶すら出来ず、相手は殺された。
「私を愛して殺されるくらいなら、私はもう誰も愛したりしない」
冷たい目の奥には、暗い闇が宿っている。
「……王子のお相手は、国王陛下が決められることでしょう」
「わかっている。この間の女とて、結婚相手とは見ていなかったが……殺されたとはあまりにも可哀想に。せめて手厚く葬ってやってくれ。頼む」
「はい。抜かりなく……」
「私の相手で殺されない相手は、どこの姫君になるのだろうな……」
すっかり心を閉ざした王子のもとに、間もなくして隣国の姫君がやってきた。和平という名の政略結婚は、王子の心を余計に閉ざすものである。
「よろしくお願いします……」
やってきた姫君も、王子と同じ十六歳。そして同じく表情を失くしている。
「こちらこそよろしく……」
そう言った王子の目に、初めて姫君の顔が映った。美しいその顔に似合わず、暗い影を落とし、それ以上何も話そうとはしない。
まだ若い身で見知らぬ国へ連れて来られた姫君に、王子は自分を重ねた。
「まだ傷は癒えないが、前を向かなければ……たった一人、異国の地へやってきた姫のためにも、国を背負わなければならない自分のためにも……」
一番の家臣に静かにそう告げた王子は、また一つ大きな壁を乗り越え、大人びた表情を見せていた。