232 熱中症
その夏、記録的な猛暑に見まわれた日本は、うだるような暑さの中で生きていた。
エアコンが悲鳴を上げそうなくらいフル稼働し、エアコンから吐き出される熱は外の気温を更に上げる。そんな悪循環の中で、一人、また一人と倒れていった。
大地はエアコンのないアパートで、不規則な生活を送っている。夜は工事現場、昼間はコンビニのアルバイトと、バイト三昧しながら大学に通う。
夜中、工事現場の仕事を終えて、大地はアパートへ帰っていく。盗られる物はないからと窓を開けっ放しにしていても、部屋の中はもわもわとした嫌な空気が滞る。
「あっちぃなー」
そう言って、大地は水のシャワーを浴び、扇風機を回した。部屋の熱風がただ回るだけの扇風機。それでもないよりはましだ。
テレビをつけると、熱中症で亡くなった老人の話をやっていた。
「可哀想にな……」
ビールに口をつけながら、大地はテレビを眺める。扇風機もなかったお年寄り、太陽の反射でぐったりした動物、居たたまれないニュースが飛び交う。
その時、大地の携帯電話が鳴った。
『大地? 帰ってんだろ?』
同じサークルの仲間である。
「うん。さっきな」
『おまえも来いよ。もうみんな来てるぞ』
「わかった。そろそろ始めようと思ってた。すぐ行くわ」
そう言って電話を切り、大地はネットゲームを立ち上げる。
今日も一晩中、仲間とゲームをしていた。熱風の吹く部屋で、水気も取らず……。
次の日のニュースで、若者の熱中症による死亡ニュースが流れた。