224 ひとりにひとつのもの
あなたが大きくなる前に、私はきっと死んでしまう。
それは、私に下された運命――。
そんな運命を、私は逆らって生きてきた。
二十歳になるまで生きられないと言われた私が、二十歳になり、愛する旦那様と結婚をし、子供まで授かり、元気なあなたを抱けたことは、神様がくださった奇跡なのかもしれない。
いやそれは、少しは私の頑張りでもあるということを、あなたには伝えたい。
努力をしなければ手に入れられないものもあるし、それが手に入れられなくても、その過程で手にする大切なものもあるはず。
私はただ、あなたが健康で優しく自由に生きてくれればそれでいい。何にも負けない強さは優しさであるということを、あなたに伝えたいと思います。
◇ ◇ ◇ ◇
「優。そろそろ行くよ」
父親にそう呼ばれ、二十歳の青年は頷いた。
母親の死は、青年が二十歳を迎える、たった三日前のことだった。
「うん。今行く」
そう言うと、青年は母親の手紙を丁寧に胸ポケットへしまい、親戚たちが集まる部屋へと戻っていく。
「優くん。こっちにおいで」
「優くん、大きくなったね」
親戚たちに迎えられ、自分の名前を呼ばれた青年は、なぜか優しい気持ちになる。
少なからず、母親と衝突した思春期もあったが、基本的には仲の良い親子だった。
母親がどんな気持ちで自分にその名前を授けたのかを知り、青年の心は満たされていた。そしてこれからも、自分の名前を大切にしていくと決意して――。