217 アイツへ
ねえ、って呼べば、
うん? って答える。
いつの間にかお互いが空気のような存在になっていて、
心地よくて、いるのが当たり前で、いなくてもその気配を感じられる。
でも、そう思ってたのは、勘違いしていたのは、私だけだったんだね。
あいつはずっと一緒だった友達。
弟のような、親友のような、男女とかそういうの関係なくて、近所に住む仲の良い男の子。
子供の頃は、お互いに、大きくなったら結婚しよう、なんて幼い約束を交わしたこともあった。
でもいつからだろう。あいつは私を避けだした。
からかわれる。いつまでも女とばかり遊んでいられない。おまえも彼氏くらい見つけろよ。
そんな思春期の反発とともに、あいつに彼女が出来た。
見たこともない笑顔。感じたこともない優しさ。
あいつはもう、私の知ってるあいつじゃない。
もっとつかまえておけばよかった。もっとちゃんと向き合っていればよかった。
空気のような存在だとか思ってなくて、ちゃんと告白しておけばよかった。
後悔は、いくらでも出てくる。
でも、私の好きだったあいつはもういない。
祝福するつもりはない。当たり散らす気もない。
いつか――そう、いつか。
お互いに年を取り、子供なんかも出来たりして、そんな何十年後かでも、あの頃はあんたのことが好きだった、なんて、笑い話にでもして伝えられるといいな。
そんなことを考えているから、今はまだ失恋の涙に浸らせて。
言葉が欲しいなら、あとで伝えるわ。
結婚、おめでとうって。