表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
216/371

216 再会

 自分とそっくりな人は、この世に三人いるという。

 そんなことは都市伝説もいいところだって、私もそう思ってた。


 ある夏の日、私は彼氏とともに海の近くの民宿へと訪れた。

 大学に入りたての私たち。両親を説得しての、初めての旅行――。

「あれ、桃。まだ風呂行ってなかったんだ? 早く行けよ。後で花火やるからさ」

 大浴場に向かう途中、何の気なしに、私は知らない青年にそう声を掛けられた。

 誰か近くにいたのかしら――と、首を傾げながら、私は大浴場へと向かっていく。

 体を洗って、湯船に入ると、私は固まった。

 まるで鏡でも見ているかのように、そこには私に似た……いや、私と同じ顔をした女性がいる。

「あ、あなた誰?!」

 私は不気味なものでも見るかのように、思わずそう言った。

「……高田桃子。あなたは?」

「私は……日向井亜也」

 まるで名前も違う二人。でも話せば打ち解け合い、同じ年の大学生で、桃子は大学のサークルで来ているという。

 後からやって来た桃子の友達とも対面し、私は彼氏とともにそのサークルの仲間に入った。


 桃子と過ごす最後の夜、私は桃子のサークル仲間とすっかり打ち解けた彼氏を置いて、桃子と二人、部屋へ戻った。

「いい? サン、ニ、イチ」

 フラッシュとともに、携帯電話のシャッター音が鳴る。

 私の携帯電話には、たった今撮った二人の写真がある。客観的に見ても、私たちはそっくりだった。

「桃子の家も、両親がいるんだよね?」

「うん。兄弟もいる」

「うちは一人っ子だから……まずはうちから聞いてみよう」

「うん……でも、もし双子だったとしても、お父さんかお母さん、どっちが本当の親かわからないんだよね?」

「だから、それを今から聞くんじゃない」

 私たちはお互いに唾を呑み込みながら、携帯電話を見つめる。

 そして私は、母親へと電話をかけた。

「あ……ママ?」

『亜也? 明日帰って来るのよね?』

「うん。あのさ……突然で悪いんだけど、聞きたいことがあるんだけど……高田桃子って、知ってる?」

『……』

 沈黙が、すべてを物語っていた。

「……知ってるんだね」

『……その子が、何か?』

「会ったの。同じ民宿で……私とまったく同じ顔」

『そう……そうなの』

 それから私たちは、母からいきさつを聞いた。

 私たちが生まれる前に、母は桃子の父親と結婚していて、そして離婚したこと。産まれて間もない私たちの片方を、無理やり父親の家族に取られたこと。それを今日まで隠していたこと。

 両親だと思っていた親が、片方は血の繋がりがないことを知って、少なからずのショックはあったが、正直に話してくれた母親に、私たちは謎が解けた達成感のようなものを感じていた。

 それから私と桃子は、母に会いに行く。そして父に会いに行く。これからどんな困難が待ち構えていようと、失われた時間がどんなに多くとも、私と桃子は深い絆のようなもので結ばれている気がする。不思議と怖くはなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ