216 再会
自分とそっくりな人は、この世に三人いるという。
そんなことは都市伝説もいいところだって、私もそう思ってた。
ある夏の日、私は彼氏とともに海の近くの民宿へと訪れた。
大学に入りたての私たち。両親を説得しての、初めての旅行――。
「あれ、桃。まだ風呂行ってなかったんだ? 早く行けよ。後で花火やるからさ」
大浴場に向かう途中、何の気なしに、私は知らない青年にそう声を掛けられた。
誰か近くにいたのかしら――と、首を傾げながら、私は大浴場へと向かっていく。
体を洗って、湯船に入ると、私は固まった。
まるで鏡でも見ているかのように、そこには私に似た……いや、私と同じ顔をした女性がいる。
「あ、あなた誰?!」
私は不気味なものでも見るかのように、思わずそう言った。
「……高田桃子。あなたは?」
「私は……日向井亜也」
まるで名前も違う二人。でも話せば打ち解け合い、同じ年の大学生で、桃子は大学のサークルで来ているという。
後からやって来た桃子の友達とも対面し、私は彼氏とともにそのサークルの仲間に入った。
桃子と過ごす最後の夜、私は桃子のサークル仲間とすっかり打ち解けた彼氏を置いて、桃子と二人、部屋へ戻った。
「いい? サン、ニ、イチ」
フラッシュとともに、携帯電話のシャッター音が鳴る。
私の携帯電話には、たった今撮った二人の写真がある。客観的に見ても、私たちはそっくりだった。
「桃子の家も、両親がいるんだよね?」
「うん。兄弟もいる」
「うちは一人っ子だから……まずはうちから聞いてみよう」
「うん……でも、もし双子だったとしても、お父さんかお母さん、どっちが本当の親かわからないんだよね?」
「だから、それを今から聞くんじゃない」
私たちはお互いに唾を呑み込みながら、携帯電話を見つめる。
そして私は、母親へと電話をかけた。
「あ……ママ?」
『亜也? 明日帰って来るのよね?』
「うん。あのさ……突然で悪いんだけど、聞きたいことがあるんだけど……高田桃子って、知ってる?」
『……』
沈黙が、すべてを物語っていた。
「……知ってるんだね」
『……その子が、何か?』
「会ったの。同じ民宿で……私とまったく同じ顔」
『そう……そうなの』
それから私たちは、母からいきさつを聞いた。
私たちが生まれる前に、母は桃子の父親と結婚していて、そして離婚したこと。産まれて間もない私たちの片方を、無理やり父親の家族に取られたこと。それを今日まで隠していたこと。
両親だと思っていた親が、片方は血の繋がりがないことを知って、少なからずのショックはあったが、正直に話してくれた母親に、私たちは謎が解けた達成感のようなものを感じていた。
それから私と桃子は、母に会いに行く。そして父に会いに行く。これからどんな困難が待ち構えていようと、失われた時間がどんなに多くとも、私と桃子は深い絆のようなもので結ばれている気がする。不思議と怖くはなかった。