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214 お題小説「女神」

この物語は、同じ“小説家になろう”で執筆されている「羽 衣石」様より、「女神」というお題をいただきましたので、書いてみました。

世界観はどれとも異なるお話ですので、ご了承ください。

   「地上に降り立った女神」


 天上界。さまざまな神々が暮らす宮殿の隅に、一人の女神がいた。

 フェンテ、という名のその子は、十五歳になろうというのに、他の女神とも交流を持とうとはしない。

「いっそ天使に……ううん、人間になりたい」

 そう呟くと、下界を見下ろす。

 彼女の儚さは、出生に秘密がある。彼女の親は、悪魔と女神である。母である女神は、魔界の王子と真剣な恋愛をしたと聞いているが、フェンテを産んで間もなく死んでしまった。

 悪魔との間の子はフェンテが初めてではないものの、それでも風当たりは強かったせいで、フェンテの心は、天上界にはない。

「悲観しちゃって、馬鹿みたい」

 ふとそんな陰口が聞こえ、フェンテは振り返る。だが、もうそこに姿はない。

「そうよ……悲観してても仕方がない。ここに居場所がないなら……行くわ」

 フェンテは下界を見つめた。そこには人間界が広がる。許可なく天上界を離れることは重罪に当たるが、フェンテはそれよりも、ここから出たかった。

「降りよう……新しい世界へ」

 神々しいまでの光が、天から地上へ一直線に落ちていく。

 一瞬、気を失っていたのか、気付けばフェンテは、海辺にある教会の片隅にいた。だが、古ぼけた教会に、人の気配はない。

「……まるで宮殿にある私の家みたい」

 地上に降りても孤独な自分に、フェンテは悲しく微笑む。

 宮殿には住んでいるが、部屋を与えられたわけでもなく、まるで隔離されたように、小さな家で一人で暮らしていた。

 その時、遠くから歌が聞こえてきた。何人かの合唱のように、心地よいハーモニーが聞こえる。

 その歌に導かれるように、フェンテは歩き出した。

 しばらく歩いていくと、綺麗な建物があり、中には子供から大人までで編成された合唱隊がいる。

 フェンテは時間を忘れ、窓からこっそりとその様子を眺めていた。

 やがて歌が終わり、人々が去っていく。誰もいなくなった建物の隅で、フェンテは空を見上げた。

「ここも天上界と一緒ね……神様はもう私がここにいること、気付いていらっしゃるかしら」

 すると突然、少年が顔を覗かせた。

 フェンテは驚いて立ち上がり、さっきまでいた古い教会へ向かって走っていった。

「怖がらないで! 何もしないよ!」

 途中の並木道で、フェンテは少年に腕を掴まれ、そう言われた。

 少年は、フェンテと同じくらいの年頃だろうか。まだあどけなさが残るが、人間と初めて接触したフェンテには、恐怖が襲う。

「あ、あの……」

 怖がっている様子のフェンテに、少年は優しく笑う。

「驚かせたみたいでごめん。君、さっきずっと覗いていただろう? 入ってくればよかったのに」

「……」

「僕の名前は、エリック。さっきいた教会で暮らしてるんだ」

 聞けばエリックは孤児で、赤ん坊の頃から教会で育てられていると聞いた。

「私の名は……フェンテ。親兄弟はいないけど、家出してきたの」

「何か事情があるみたいだね。落ち着くまでここにいればいいよ」

「ありがとう……」

 少しずつ二人の心が開かれ、手が繋がれた。

 すると次の瞬間、大きな稲妻が落ち、辺りは突然の豪雨に見舞われた。

「すごい雨だ! 旧教会のほうが近いな……行こう」

 エリックはフェンテの手を取ったまま、古びた教会へと入っていく。

「まいったな……この雨じゃ、牧師さんたちも出かけたまま帰ってこられないだろう」

 そう言ってエリックが振り返ると、フェンテはエリックの手を取ったまま、ガクガクと震えている。

(神様が怒っていらっしゃるんだわ……)

「フェンテ……? 大丈夫だよ。この教会は古いけど頑丈だし、雨なんてすぐ止むよ。でも、食料は新しい教会のほうに移してしまったばかりなんだ。取ってくるから、ここにいて」

「待って! 行かないで」

「大丈夫だよ。すぐそこだから」

「どうしても行くなら、私も一緒に行くわ」

「でも、この雨だ。君までずぶ濡れになっちゃうよ」

「大丈夫だから……」

 あまりに不安げなフェンテの様子に、エリックは微笑み、頷いた。

「わかった。じゃあ一緒に行こう。ここよりあちらに戻ったほうがいいとも思う」

 そう言って、エリックはフェンテを連れ、並木道を小走りで戻っていく。

「あっ!」

 しばらく走ると、フェンテが足を滑らせて転んだ。

「大丈夫? 枯葉が滑るんだ……」

 少し先にいたエリックが戻ろうとしたその時、稲妻が一直線に近くの木へと落ち、折れた木が二人の間に倒れ込んだ。

「エリック!」

 叫びながら、フェンテがエリックに駆け寄る。

 だが、エリックはすでに気を失い、倒れた木はあまりにも大きく、運悪くエリックの足を抑え込んでいる。

「私なんかと関わったから……」

 顔面蒼白になったまま、フェンテはエリックに倒れた木に両手を添える。

「お許しください、神様……すぐに天上界へ戻ります。罰は受けます。だから、彼を助けてください。どうかお願いします……」

 祈りを捧げながら、フェンテは神通力で木を避け、エリックの潰れた足を治した。

「フェン、テ……」

 意識を取り戻したエリックの目に、涙に濡れたフェンテが映る。未だ降り続く豪雨が、二人を濡らす。

「ごめんなさい、エリック……私のせいでこんな……」

「どうして君のせいなんだ。それより君は大丈夫? おかしいな……僕はもう駄目かと思ったのに、なんともないみたいだ」

 すっかり傷も痛みもなく、エリックは静かに立ち上がる。

「もう二人ともずぶ濡れだね。戻ろう」

「……ええ……」

 止めどなく溢れるフェンテの涙は、別れを意味していた。

 真新しい教会に戻った二人。

「今、火をつけるね。マッチを持ってくるから、少し待ってて」

 そう言って去っていくエリックの後ろ姿を見つめ、フェンテはそっと教会を出ていった。

「神様。未熟者の私が、勝手に地上へ降りて許されないはずがありません。どうせ望まれない存在……命を絶たれても、地獄へ落とされても、反論する余地もありません。ただどうか、私と関わってしまったエリックを、これ以上傷つけるのはやめてください。彼の記憶を消して、私に罰をお与えください」

 豪雨の中、跪いたフェンテは、神の声を待った。

「フェンテ!」

 その時、エリックが教会から出てきてそう呼んだ。

「エリック……」

「こんな雨の中、何してるんだ。早く入って」

「……私はここにはいられないわ」

「どうして! いつまででもいていいんだ」

 フェンテは首を振り、真っ直ぐにエリックを見つめる。エリックの記憶は消されるだろう。

 覚悟を決めたように、フェンテはそっと口を開く。

「優しくしてくれてありがとう、エリック。信じられないと思うけど……私は天上界から来たの」

「天、上界……? 君は……もしかして、天使なの?」

「ううん。女神よ……といっても、力も何もない、誰にも望まれない女神だわ」

「……女神様か。天使のような子だとは思ってた。僕は信じるよ。だって僕を助けてくれたのも、君だろ?」

 その言葉に、フェンテは大きく首を振った。

「あなたを危険な目に合わせたのは私よ。私がここに来なければ、あなたが怖い思いをすることもなかった」

 泣き叫ぶフェンテを、エリックは優しく抱きしめる。

「君が望むなら、ずっと一緒にいられる。僕は君が好きなんだ」

「エリック……」

 安心させるように微笑みながら、エリックは空に向かって手を合わせる。

「神様……僕にフェンテをお与えください。フェンテが望んでくれるなら、僕がきっとフェンテを幸せにします」

 幼いながらも、まるでプロポーズのようなエリックの言葉に、さっきまで豪雨だった世界が、嘘のように晴れ間を覗かせる。

 神の声は聞こえなかったが、その意志は二人に通じた。


 誰も知らない、一人の女神のおはなし。

いろいろタブーを冒した気がしますが、自由に書かせていただきました。

お題をくださった「羽 衣石」様、ありがとうございました!

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