213 雪が好きな君のため
僕の娘は、雪が好き。
名前を雪にしたからかもしれない。
真っ白で儚げで、僕の大好きな妻によく似た、かわいい娘だ。
「雪、雪!」
何度目かの誕生日を迎えた寒い冬、寒さなんかもろともせず、君は降り出した雪に外を見つめる。
その紅潮した顔は、今にも外へ飛び出したくてうずうずしている。
「雪。外へ出ようか」
僕は娘を連れて、寒い外へと出ていった。
もし明日雪が積もったら、早く起きて、こっそりかまくらでも作ってやろう。その後はきっと、二人で雪だるまでも作ろう。
そう考えると、僕は娘の喜ぶ顔を想像して、くすりと笑った。
次の日、僕は予定通り降り積もった雪に、早起きしてかまくらを作る。
でも娘はその日、熱を出して寝込んでしまい、一緒に雪だるまを作ることは出来なかった。
昨日、寒い中、僕が娘を連れて外へ出たからかと後悔もしたが、窓から見える僕が作ったかまくらを見て、予想以上の笑顔を見せてくれた娘に、「次に雪が降ったら、一緒に雪だるまをつくろうね」と、約束をした。
だがその冬、結局雪は積もらず、娘の大好きな冬は過ぎていってしまう。
「また来年も、雪降るよね?」
そんな娘と、僕は指きりげんまんをする。
「もちろんだよ。そうしたら、一緒に雪だるま作ろうね」
「うん」
その時、僕らの前に、雪が舞った。
「雪!」
娘の言葉に、僕は半信半疑で顔を上げる。
春先の公園に、桜の花びらという雪が降る。その光景は、まさに美しいの一言だった。
「ああ……春の雪だな」
娘は嬉しそうで、僕もその美しすぎる光景に、思わず涙ぐんだ。
それから僕は娘とともに、春の桜並木を歩いてゆく。秋は落ち葉の中、枯葉を雪に見立ててみる。
そしてまた、冬が来る。
僕らは一年を通して、娘の大好きな雪を感じているんだ。
北風の中、雪だるまが笑った。