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210 僕の冒険記

寛人ひろと。勉強しなさい」

「はーい……」

 僕はそう言いながらも、漫画雑誌を読みあさっている。

 漫画ぐらい勉強が楽しけりゃいいってもんだけど、あいにく小学生の僕には冒険漫画のほうが楽しくてたまらないんだ。

「おお、すっげー続き気になる! もうなんで週刊誌ってすぐ終わるんだろうね。もうちょっとボリュームが欲しいってもんだけど……」

 一人でぶつぶつ言いながらも、僕はもう一度読み返す。

「しかしこのザコキャラ、弱いなあ。ザコだからしょうがないか。でも僕ならもうちょっとマシな動きで海賊をやっつけるけど」

 僕は読んでいた漫画のページをめくる。海賊たちが戦っているシーンだが、仲間のザコキャラがどうにもドジを踏んで、ピンチになるのがたまらなく嫌だ。

 ページをめくると、僕は目を疑った。

「あれ? さっきこんなんだったっけ?」

 そこは一面白紙のページで、吹き出しがいくつか書かれているものの、セリフもない。

「うん? なんだこりゃ?」

 と言ったところで、僕は百八十度変わった目の前の景色に、息を呑む。

 ここはどうやら船の上。僕は船の柱に体を縛りつけられ、目の前では海賊たちの壮絶な戦いが繰り広げられている。そこには、見憶えのある主人公の顔もあった。

「こ、こ、ここは……漫画の世界?!」

 僕は縛られているためか、周りに敵はいない。

 代わりに、主人公が僕に気付いて、闘いながら笑いかけた。

「気が付いたか、寛人。助けに来たからもう少し待ってな。よく頑張ったな」

 僕の体はボロボロで、捕まった際に殴られたと見られる傷が全身にある。

 すっかり漫画の世界に脳が溶け込んで、僕は戦う主人公を見つめながら、ぐっと歯を食いしばった。

「僕はもっと頑張れる。足手まといにはならないぞ!」

 その時、縛られていた僕の体の縄が解けた。

 僕は、主人公と戦っている目の前の敵の首にしがみつく。敵は意表を突かれ、もがいている。

 だが次の瞬間、僕は後ろから敵に殴られたようで、そのまま意識を失った。


「気が付いたか、寛人」

 それからどのくらいの時間が経ったのか、気付けば僕は船の甲板に横たわっており、仲間から見下ろされていた。

「僕、負けたのか……カッコ悪いな。もっとうまくやれると思ったのに……」

「なに言ってるんだ! おまえに助けられたよ、寛人」

 見ると、周りには無数の敵が横たわっているのが見える。

「よかった……勝ったんだね」

「ああ。これで先に進める。おまえは立派な海賊だよ」

 主人公が、そう言って僕に戦利品の金貨をくれた。

 すると、次第に世界が薄れていく。

「な、なんだ? 目が回る……」

 ふと気がつくと、そこは僕の家だった。

「ハハ……なんだ、夢か」

 僕は残念なようなよかったような気持ちで、漫画を見つめる。

 さっきまで白紙と見られたページはきちんと埋まっているが、僕と主人公が交わしたセリフそのもので少し驚いた。

「僕の漫画熱も重傷だな……」

 僕は漫画雑誌を閉じると、ベッドに横たわる。なぜか体が異常にだるいので、僕はそのまま寝てしまった。


 それから僕は、何事もなく朝を迎え、いつも通り学校へ向かっていく。

 その間に、お母さんが僕の部屋を掃除していることを、僕は知らない。

「またこんなに漫画ばっかり……」

 お母さんは、床に転がった漫画を積み上げ、掃除機をかける。

「あら?」

 その時、お母さんはベッドの下に転がる金貨を見つけた。

「どこのコインかしら。また隠れてゲームセンターにでも行ったのね」

 お母さんはため息をつくと、金貨を僕の机の中にしまった。

 僕はその金貨の存在も、あの不思議な夢のことも、次第に忘れていくはずだ。

 でも、数年後に出てくるその金貨は、僕の大事なものを思い出させてくれるに違いない。

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