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209 火の妖精

 火の妖精のファイアは、妖精の中でも乱暴で嫌われ者。すぐカッとなって怒り、原っぱを燃やしたこともあります。

 そんな問題児のファイアは、一つの場所にいられなくなり、旅人となって世界中を回っていました。

「僕は世界中旅をしてきたんだ。怪獣の国やお菓子の国、たくさん見てきたよ」

 新しい土地にやってくるなり、ファイアは自慢げにそう話しました。

「嘘ばっかり。ファイアは嘘つきで嫌われ者だって聞いたわ」

 話を聞いていた花の精の言葉に、ファイアはカッとなります。

「なんだと? おまえを燃やしてもいいんだぞ」

「キャー」

 その場にいたさまざまな妖精たちは、大急ぎで去っていってしまいました。

「チェッ。僕だって嘘なんかつきたくないけど……こうでもしなきゃ、みんな僕の話なんか聞いてくれないだろ」

 ファイアはそう言うと、寂しそうに池の畔へ歩いていきました。

「あなたがファイアね? 世界中を旅しているという……」

 その時、何処からか声が聞こえ、ファイアはあたりを見回します。すると目の前にある池に浮いた浮島に、一人の妖精を見つけました。

「君はだあれ?」

「私はプール。この池の妖精よ。私はここから動けないから、あなたの話が聞きたいわ」

「いいよ。じゃあせめて近くに来てよ。そんなに遠くじゃ、話も出来ない」

「わかったわ」

 プールはそう言うと、池の水面を歩き、ファイアのそばに座りました。

「じゃあ、この間出会った怪獣の国の話を……」

 そう言ったところで、ファイアは我に返り、目を伏せます。

「いいや、嘘はよくないね。大した話はないけれど、楽しいことや危険なこともたくさんあったのは事実だ。それを話すよ」

「ええ」

 ファイアはみんなにしてきた嘘のつくり話ではなく、旅の途中で見聞きしたさまざまなことを、プールに言って聞かせました。

 ふるさとの王様がかつらだったことで国中が大騒ぎになったこと、きつい山登りの後に見た夕焼けがとても綺麗だったこと、野宿をしていると雨が降り、危うく自分の火が消え命を落としそうになったことなどを話すと、プールは目を輝かせます。

「なんて素敵なの。あなたは正真正銘の冒険者ね」

 プールの言葉に、ファイアは照れて体を覆う炎をいっそう熱くさせます。

「そ、そんなことないよ。君だって冒険がしたければ、一緒に連れて行ってあげる」

「……私は駄目だわ。行きたいけれど、私がここを離れたら、この池は枯れてしまうもの」

 残念そうな顔で、プールはそう言いました。

「そうか……」

「だから、あなたの話をたくさん聞かせて。そうするだけで、私も冒険したみたいな気持ちになれるから」

「わかったよ。いくらでもしてあげる」

 ファイアはプールに、たくさんの話をしてあげました。

 そして話が尽きた頃、プールは満足そうに笑いました。

「ありがとう、ファイア。これから先の旅も気を付けてね。そしてまたここへ来た時は、きっとまた話を聞かせてね」

 プールの言葉に、ファイアは目を伏せました。

「……ここにいたら駄目かな。僕は、好きで旅をしているわけじゃない。どこへ行っても受け入れられなかったから……僕が熱くてみんなを燃やしてしまうから、僕が怒るとすべてが燃えてしまうから、だから僕は落ち着ける場所を探していたんだ」

 やっとのことでそう言ったファイアに、プールは優しく微笑みます。

「ここにいたいならいればいいわ。私なら大歓迎よ」

 しかし、周りにいた木の精や花の精などは、口々に言います。

「なにを言っているの、プール。ファイアも自分で言ったじゃない。みんなを燃やしてしまうって……池の妖精のプールなら大丈夫でしょうけど、私たちにとってファイアは危険なのよ。燃やされてしまうわ」

「助け合って生きていきましょうよ。ファイアだって優しい心を持っているわ。みんなが仲良くすれば、みんなを燃やしてしまうはずがないわ」

「そんなことわからないじゃない」

 言い争いが始まってしまい、ファイアは悲しく立ち上がりました。

「ごめんなさい。言ってみただけなんだ。やっぱり僕には旅が一番」

 そう言っていたファイアの目から、次々に涙が溢れ出します。

 そしてファイアは、プールに抱きつきました。

「プール、プール。ありがとう……僕を信じてくれて。僕は君が大好きになったよ。みんなにも、大好きになってもらいたかった……」

 プールはファイアを見つめます。

「離れて、ファイア。私を覆う水で、あなたの炎が消えてしまうわ」

「いいんだ、プール。僕は君と一緒にいたい。ここにいたいんだ」

「私もよ、ファイア。でも、あなたが……」

 その時、ファイアの火が消えました。プールを覆う池の水によって、消されたのです。

 プールは涙を流して、消え残ったわずかな火種を流木に移し、そして池の畔にある岩場にそれを移します。

「もう誰もあなたを責めたりしないわ。あなたの真心を、みんなもわかったはず。私もあなたが好きよ。だからいつか、あなたのような火の精が戻って来てくれることを願うわ……」

 ファイアは消えてしまったが、その小さな炎はいつまでも燃え続けました。

 時には旅人を温め、時には闇夜を照らす。いつしかその炎は、恐れていた者たちをも暖かく包み、道を照らしているようでした。

 プールは旅人の足音に、耳を澄ませます。

「僕は火の妖精。世界中を旅しているんだ」

 いつかそんな声が聞ける日を信じて――。

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