200 ちぐはぐな少女たち
「すずちゃん!」
そう言って私に近付いて来るのは、同じ年の女の子・千佳。
ボーイッシュな出で立ちの私とは正反対の、どちらかといえば清楚で私とは真逆の女の子は、高校の同級生……といっても、私は早々に高校をやめたから、ほんの数か月のお付き合いだったというわけ。
でも、どういうわけか、千佳は私にくっついてくる。学校帰りも休日も、私のそばを離れない。それは私にとってうざったくもあるけど、やはり嬉しくもあった。
「千佳。今日はあんま会えないよ? バイトあるから」
「そっか……いいなあ、バイト。うちの学校、バイト禁止だから……」
「それもあって、学校やめたんだよねえ。よくあんな学校行ってられるね」
「私、中等部からずっとあそこだから……」
そういう千佳の通う学校は、私立のちょっといいとこの女子校。私は高校の推薦に飛びついてそこに入ったわけだけど、やはりお嬢様の校風はまったく合わなかった。逆に千佳は、中学からあの学校にいる。
「お茶でもしよっか。おごるよ」
私の言葉に、千佳は首を振る。
「ええ? いいよ。私もお金あるから。でもお茶はしよう」
私たちは、目の前にあったファミリーレストランへと入っていった。
「千佳さあ。オレのこと、女だと思ってる?」
千佳の前では、男になってる自分がいる。男兄弟で育ったこともあるけれど、ついついオレって言ってしまう。
突然の私のおかしな質問に、千佳は笑う。
「当たり前じゃない」
「あっそう?」
「どうしてそんなこと聞くの?」
「いや……男だと思って近付いてきてるのかと思って。じゃないとオレみたいな女、友達としてだけで付き合えるかなってさ」
「すずちゃんは、私の大親友だよ。でも、すずちゃんが男の子だったらいいなって思う時もある。だって男の子って怖いじゃない」
女子の園に隔離されている千佳は、男に免疫がないようだ。
私は頭を掻いて、目の前のコーヒーを飲み干す。
「変な子だよね、千佳って。なんでオレみたいなのにくっついてくるかな。オレなんか学校のつま弾きもんだったし、見ての通り不良少年っしょ」
それは自分でも自覚していた。
スカートの長さまで決められている高校。それ以外にも校則は山のようにあったが、私は髪を染め、ピアスを開け、ミニスカートで学校へ通った。もちろん毎日怒られていたが、私は反発して負けなかった。
「すずちゃんは、私の目標なの」
突然、千佳がそう言った。
「は……はあ?!」
「すずちゃんの強さに憧れてるの。私は、先生に小さなことで怒られても委縮しちゃう。自分の意見があったとしても、それを発言する勇気もないの。でも、すずちゃんが先生に立ち向かっている姿を見た時、私は本当に勇気をもらったの。でも、私にはまだまだだから……だからすずちゃんと少しでもそばにいて、オーラを感じていたいんだ」
屈託のない笑顔で、千佳はそう笑う。
でもそんな言葉に、私も救われた。一人で立ち向かっても、敵は先生だけじゃなかった。同じ生徒からも好奇の目で見られ、同調してくれる子なんて一人もいなかった。
でも千佳は、一人きりの放課後、震える手で私に握手を求めてきた。私が怖かったんだろうに、それでも私に笑いかけてくれた。言葉はなかったけれど、なんだか思いが通じた瞬間だった。
「ほんと……変なヤツ」
私も笑った。
私も千佳に憧れる。純粋で真っ直ぐで、綺麗という言葉がお似合いの千佳。それを今、本人に言えなかったのは、照れでもあり卑怯だと思ったけど、きっと千佳なら気付いてくれているはずだ。
これからも、きっと私たちは友達で居続けられるだろう。正反対でも、これだけわかりあえているのだから。