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002 旅の途中
カイは歩き続けた。
ある時は灼熱の砂漠を、ある時は無数の人ごみの中を、脇目も振らずに歩き続けた。
きっかけはなんだっただろう。家族との些細な喧嘩――。今のカイには、怒りしかない。
「み、ず……」
やがてカイは力尽き、倒れた。
もう長い間、食べることも飲むこともしていなかったことに気付く。
(ここはどこだろう。僕はどうしてここにいるのだろう……)
力尽きたカイは、初めて振り返った。
するとそこには、果てしなく広がるごちそう。見なれた家と、暖かなベッドがある。
「ああ。僕はどうして歩き続けていたのだろう。僕にはあんなにも暖かな家が、帰る場所があったのに……」
目が覚めると、カイは海の家の軒先で眠っていたことに気付いた。
「やっと振り返ってくれたのね、貝。一緒に帰りましょう」
そう言って、ヤドカリがカイを背負う。
夕日の眩しさが、二人を包んだ。
本来、ヤドカリの貝は殻ですが、作中の貝は生きているのか、友達なのか、妄想なのか、なんなのか……解釈は読み手次第です。




