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195 二十一世紀のマリーアントワネット

 不況に次ぐ不況。人々が苦しむ中で、ケタ外れの生活を送っている人間もいる。

 父親は外資系の仕事をしていることもあるが、大昔は華族の出、天皇家の親戚でもある家柄で、歴代の先祖には総理大臣などもいる。正真正銘、生まれながらのお嬢様であるのは、富田麗奈。十六歳である。

「マリーアントワネットのどこが悪いのかしらね。パンがなければケーキを食べればいいじゃない。私はそんな非常識でもないけど、マリーの言っていることはよくわかるわ」

 麗奈はそう言って、同じ年のメイドである真里子にそう言った。真里子は麗奈の話し相手として雇われており、学校も同じ学校へ通わせてもらっている、子供の頃からの友達だ。

「まあ……生まれついての境遇が違うから、麗奈ちゃんがマリーアントワネットの気持ちがわかるっていうのは当然なのかもしれないね。私は庶民だからわからないけど」

「あら。じゃあ、これ貸してあげる。パパが買ってくれたのよ」

 そう言って麗奈が見せたのは、美しく輝くネックレスである。

「わあ。綺麗」

「真里子もマリーと同じような名前なんだから、こういうのもつけてみないとね。このネックレス、パパが言うにはマリーアントワネットがつけていたものなんですって。大きなダイヤが特徴でしょ」

「い、いけないわ。そんな高価な物、少しだって触れられない」

「大丈夫よ。真里子が盗むはずないんだし、ダイヤだからそう簡単に壊れないって。それより、つけてごらんなさいよ。マリーの気持ちが少しはわかるかもよ。私、つけてあげる」

 麗奈はそう言って、真里子の首にネックレスをつけてやった。

「ふ……ふふふふふふ……」

 その時、真里子が不気味に笑う。

「ま、真里子?」

「ほほほほほ。今日はこちらで舞踏会があるんですの?」

 人が変わったように、真里子はそう言う。

「ぶ、舞踏会? ちょっと真里子、どうしたの?」

「マリコ? 私はマリーです。失礼ですが、あなたは?」

「れ、麗奈です……マリーって、まさか……」

「マリー・アントワネット・ジョゼファ・ジャンヌ・ドゥ・ロレーヌ・ドートゥリシュですが」

 麗奈はあまりの驚きに、腰を抜かした。

「な、なにをからかって……」

 だが、真里子の立ち居振る舞いは、いつもの真里子ではない。明らかに誰か乗り移っているかのように、その癖も何もかもが違う。

「ほ、本当に、マリーアントワネット……様ですか?」

「くどいですわね、麗奈さん。この首飾りがその証。これはわたくしの首飾りですから」

「こら――!」

 その時、部屋中に響くであろう男性の声が響き、真里子の首からネックレスが外された。

 その途端、真里子は意識を失うように、前へと倒れている。

「真里子!」

 麗奈が駆け寄ると、真里子は静かに目を開けた。

「あれ? 私……」

 すっかり元通りになったように、真里子は首を傾げている。

 そんな真里子に、麗奈は抱きついた。

「ああ、よかった! 元に戻らなかったらどうしようかと……」

「それより、麗奈! これは仕事で預かっている大事なネックレスだと言っただろ」

 そう言ったのは、真里子からネックレスを取った麗奈の父親だ。

「そうだったかしら。私はてっきり、パパが私に買ってくれたものかと」

「これは、マリーアントワネットの首飾り事件の時の、曰くつきの首飾りの精巧なイミテーションだ」

「イ、イミテーション? 本物じゃないの?」

「本物がここにあるわけないだろ。それにこれは預かりもの。勝手に持ち出すんじゃないよ」

 父親はそう言い聞かせて、部屋から出ていった。

 麗奈と真里子は、互いを見て笑う。

「もう、びっくりした!」

「私も」

 だが、あれは一体なんだったのか、本物だったのか、なぜイミテーションなのにああなったのか、誰にも説明がつけられない。

 しかし真里子の中の奥底では、マリーアントワネットの意識がどこかで息衝いているようだった。

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