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193 彼はアイドル

 瑞樹は泣き虫な男の子。幼稚園、小学校と一緒で、家も近く、私たちはいつも一緒に遊んでいた。中学に入ると、瑞樹は親の都合で引っ越し、離れ離れになったが、ある日彼は突如として私の前に現れた。

「み、み、瑞樹――?!」

 テレビの中で歌い踊る瑞樹に、私は釘付けになる。

 駆け出しのアイドルグループ。彼の名前は名字すら違うものの、瑞樹と名乗ったため私はすぐに確信した。

「すごい。引っ越しちゃって全然噂も聞かなかったけど……瑞樹、小さい頃から女の子に間違われるほど可愛かったもんなあ」

 そう言って、私は家を出かける。なんだか急にコンビニに行きたくなったのは、瑞樹が出ている雑誌でも買えればと思ったから。応援したいじゃない。

「あ、ちーちゃん」

 家を出るなり、ぶかぶかのセーターを着て、マフラーと帽子で顔が隠れた華奢な女の子が、私をそう呼んだ。

「あ、あんたもしかして……瑞樹?!」

 私の言葉に、瑞樹はへらっと笑う。

 中三になったはずだが、背も低く、まだあまり声変わりもしていないようで、パッと見ためは相変わらず女の子に見えるくらい……いや、女の子よりも可愛い。

「どこか出かけるの?」

 瑞樹の問いかけに、私は目を泳がせる。

「あ……ううん、コンビニ行こうとしてただけ……は、入る?」

「うん。いい?」

「うん。どうぞ……」

 二年会っていないだけだが、毎日遊んでいたとはいえ、もう他人の男の子。私は少し緊張しながらも、家の中へと招き入れた。

「相変わらず、ちーちゃん一人?」

「うん。共働きだからね。そこらへん、座って」

「ありがとう。変わってないね、この家。ちーちゃんも」

「そう? あんたは変わったよ」

 私はそう言いながらジュースを差し出し、瑞樹の前に座る。

「そうかな?」

「そうだよ。さっき見たよ、テレビ。あんたがアイドルやってるなんて」

「ハハハ……恥ずかしい」

「もう。全然連絡くれないんだもん」

「ごめんね。事務所入ったし、レッスンだなんだって、けっこう忙しくて……」

「あ、そうだ。サインしてよ、サイン」

「うん。いいけど……」

 なんだか間がもたないように、私は話を続けることしか出来ない。

 色紙なんかないから、私はノートを広げ、瑞樹に催促する。

 瑞樹はさらさらとサインを書いて、私を見つめた。

「ちーちゃん。僕、デビューしたから、これからどんどん会えなくなっちゃうと思う。手紙だって書けなくなる。でもその前に、ちーちゃんにちゃんと話しておきたいと思って、今日来たんだ」

「え?」

 瑞樹の真意が見えず、私は首を傾げる。でも、どこか何かの期待はあった。

「僕、ずっとちーちゃんのこと好きだったんだよ。アイドルは恋しちゃ駄目だって、事務所の社長も言ってる。だから、僕は恋なんかしない。でも、アイドルになる前から好きな子のことは仕方がないでしょう? 僕はずっとちーちゃんのことが好きだ。だから、それだけは覚えておいて……」

 瑞樹は真っ赤になって、そう言った。

 たったそれだけのことを言うために、瑞樹は来たというのか。その情熱に、私は素直に嬉しく思えた。

「ありがとう、瑞樹。私も鼻が高いよ。瑞希がアイドルなんて、思ってもみなかったから……私も、瑞樹が好き。ずっと応援してるから……頑張って」

 私の返事に、瑞樹の顔色は明るく変わる。

「ありがとう、ちーちゃん。僕、頑張るよ。それから、たまには会いに来たりしてもいい? メールとかもしていい?」

「うん。もちろん」

 付き合い始めたわけではないと思う。手を繋いだわけでも、キスしたわけでもない。

 でも、私たちはこれから大人になっていく。別世界にいても、気持ちは繋がってる。

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