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192 ゴンとイチ

 ゴンとイチは双子の兄弟。

 兄のゴンは逞しく、毎日泥だらけで遊ぶ。一方、弟のイチはおとなしく、病弱で外でも遊べない。

 小学校に入る頃には、二人の生活はまったく違うものとなっていた。

「ゴン。今日は学校どうだった?」

 ゴンが学校から帰るなり、イチはいつもそう尋ねる。イチはほとんど寝たきり状態になっており、学校にも通えず、たまに外へ出かける時も、車椅子から降りられない。

 それでも二人は、仲の良い兄弟である。

「今日は運動会の練習した」

 ゴンの言葉に、イチは目を輝かせる。

「運動会かあ。いいなあ」

 おまえも来いよ、と、ゴンは言えなかった。砂埃が舞う汚いグラウンド。大事な弟の体調が、これ以上悪くなるのは見ていられない。

「イチ。おまえのぶんも頑張るからな。絶対、徒競走では一位になって、おまえに一位のリボン持って帰ってきてやるからな」

「ありがとう、ゴン。ゴンなら一位取れるよね」

「あったりまえだろ? おまえの分まで走るから。そうと決めたら、練習しなきゃな」

 そう言って、ゴンは筋トレを始める。庭に出ては走り込みも行い、イチはそれをじっと眺めていた。

「こら、ゴン! イチの前で走るなって言ってるでしょ!」

 突然、買い物から帰ってきたお母さんがそう言った。

 病弱なイチを不憫に思い、ゴンにはイチの前で走ったりしないことと言い聞かせてある。

「ごめんなさい……」

 悲しそうにしたのはゴンだけではない。イチもまた、居たたまれない気持ちになった。

「いいんだ、お母さん。ゴンは僕の分まで走ってくれてるんだ。僕が頼んだんだ」

「イチ……」

「いや、俺も疲れたからやーめた」

 ゴンはそう笑って、家の中へと入っていく。

 自分のせいで怒られるゴンを、イチは申し訳なく思った。


 運動会当日。もちろん応援席に、イチの姿はない。イチの世話のため、母親の姿もない。いつもの光景だが、やはりゴンも寂しかった。

 だが、ゴンは明るく笑う。

「ゴン。一緒に食べない?」

 昼時、友達がそう誘ってくれたが、ゴンは笑って拒否をする。友達家族の中で食べるのはみじめだと思った。

「ありがとう。でも俺、あっちで食べるよ」

 ゴンはそう言って、教室へと入っていった。

 広げる弁当はお母さんの手作りで、ゴンの大好きなものばかりが入っているが、一人で食べるとなんとも味気ない。

「ゴーン!」

 そこに声がして、ゴンは振り向いた。そこには、イチとお母さんの姿がある。

「イチ! だ、大丈夫なのか? こんなところに来て」

「もう、どこにもいないから探しちゃったよ。ここからなら僕も見られるよね。先生には許可を取ったよ」

「イチ……」

「遅くなってごめんね、ゴン。一緒にごはん食べましょう」

「うん!」

 三人は、一緒に食事をする。ただそれだけで、さっきまで味気なかったお弁当が数倍美味しくなる気がした。


 ごはんを食べ終えて、ゴンは立ち上がる。

「よし。じゃあ、徒競走頑張ってくるからな」

「うん。頑張って一位取ってね!」

「おうよ」

 そう言って、ゴンは午後の競技に向かう。

 スポーツ万能なゴンは、徒競走にも自信があり、選抜リレー選手にも選ばれているほどだ。

 パアン! と、ピストルの音とともに、ゴンは走り出す。

「あっあっ!」

 途端、ゴンは足をもつらせ転んだ。

 一瞬、イチがいるはずの教室を見上げようと思ったが、約束した一位が取れずに目を伏せる。悔しかった。

 その後、なんとか選抜リレーで総合一位を勝ち取ったが、ゴンは重い足取りで教室へと向かっていった。

「ゴン! ゴン、おつかれさま。すごい早かったね!」

 落胆したゴンに反し、イチはそう言って労う。

 だが、そんなイチに苛立って、ゴンは顔を顰めた。

「なんだよ、それ。嫌味? 転んじゃって恥ずかしいってのに……」

「でも、本当に早かったよ。転んじゃったのはしょうがないよ。それでも二位なんて、すごいじゃないか。それにリレーも大活躍で、一位だったじゃないか」

 イチの言葉に思い直し、ゴンは短パンのポケットから、リレー一位のリボンを取り出し、イチに差し出す。

「ごめんな……来年こそは、個人一位のリボンもらうから」

「うん!」

 イチの笑顔に、ゴンも笑った。

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