191 秘密
高校生になって三年目の春。やっとあの人に想いが届いた。
「担任の江藤です。今日から一年間、よろしく」
江藤先生――。友達からは現実を見ろって言われたし、遊びの子も本気の子もライバルは多かった。
一年生の時は、やれることはなんでもやった。待ち伏せも、お弁当作ったりも、スポーツが苦手だけど先生が顧問をしているバレー部にも入った。
二年生の時は、自分がしてきたことを新入生もやってきたので少し引きつつ、それでも作れる機会はなんでも作った。
そして三年生に上がる前の春休み……。
「高橋」
部活の練習を夕方までやり、職員玄関で待っていた私に、帰りがけの先生が呼んだ。
「まだまだ日が落ちるの早いんだ。待ってたら危ないだろ」
「ごめんなさい。でも最近、全然話せなかったから……」
私の言葉に、先生は苦笑する。
「相変わらずだな。おまえ、次から三年生だろ? 俺のことおっかけ回してるやつだって、三年間続けたやつはそうそういないよ」
「私は続けます! 卒業しても大学行っても就職しても、ずっと先生が好きです。本気ですよ?」
真っ赤になって言った私。すぐに後悔はしたけど、胸につかえていた気持はなくなっている。
先生は、軽く私の頭を撫でた。
「変なやつだなあ。教師でちょっと若いからって、興味本位で近付いてくるやつばっかなんだけど」
「そ、そ、そんなこと!」
「うん、わかってる。高橋は人間として俺を見てくれてるっていうのは……」
「先生……」
私の目に、先生の横顔が映る。
「でも、俺は教師だし、高橋の気持ちを受け止めるなんてことはしちゃいけないし、出来ないんだ。それはわかってくれるよな?」
ズキンと、私の心に痛みが差す。頭では分かっていたけれど、受け入れられないのは悲しい。
「そう、ですよね……ハッキリ言ってもらえて、それはそれでよかったというか……」
しどろもどろになり、私は顔を伏せる。
その間に、先生は自転車置場から自転車を引いて、私の横に戻ってきた。
「とにかく出よう。下校時刻過ぎた」
「……はい」
校門を出てすぐに、先生は立ち止まる。帰る方向は逆方向だから、ここでお別れということもある。
でも先生は、いつになく真剣な表情をして、私を見つめていた。
「……先生?」
「高橋。もしおまえが卒業まで俺のこと好きでいてくれた時には……付き合おう。今は生徒としてしか見れないけど、高橋のことは、ちゃんと好きだ」
それだけで、私は舞い上がるように、また真っ赤になる。
先生は、そんな私に笑って、もう一度私の頭を撫でた。
「じゃあな。気をつけて帰れよ。あと受験があるんだから、今はとにかくそれに向かうこと。約束出来る?」
「はい!」
「よし。じゃあ、また明日な!」
そう言って、先生は自転車で去っていった。
私は歩いて帰る家路を、人には見せられないようなにやにやした顔で帰る。嬉しいの一言しかなかった。
先生。私受験も頑張るから、先生のこと好きでいるのも、このまま頑張らせて――。