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 加藤家は両親を筆頭に、十九歳の長女、十六歳の次女、十四歳の長男の僕、十三歳の次男、十歳の三女がいる五人兄弟だ。

 お父さんは温和で真面目な会社員。お母さんは主婦をしている。

 いつからだっけ……この五人兄弟の中で、僕だけが血の繋がりがないということを知ったのは……。

「将司。早く食べちゃいなさい」

 お母さんが僕を呼ぶ。でも、血の繋がりはないと知ってから、反抗期も手伝って、あまり会話をしなくなった。

「……いらね」

 僕はそう言って、朝食に手をつけず、学校へと出て行った。

 反抗期の僕に、お母さんは困った顔をしてる。血の繋がりがないと知ってから、余計に両親には感謝しているけど、僕はまだ子供らしく、素直に恩を受けられないでいる。


「将司。そこへ座りなさい」

 会話がなくなってしばらくして、夜にお父さんが僕をリビングに呼び出した。隣にはお母さん。兄弟たちは締め出されている。

「おまえの最近の行動は目に余る。反抗期だとも思うが、何か不満があるのなら言いなさい」

 お父さんはそう言って、僕を真っ直ぐに見つめる。

「……僕に何かあると思うの?」

 挑発するように、僕はそう言った。本当はこんなことを言いたいわけじゃない。でも、なんだか腹立たしい思いが襲う。

「それはわからない。だが、おまえに何かあるのなら話してみてくれないか。私たちはおまえの親なんだから」

「……まるで親だってことを植え付けようとしているみたいだ。別に何もないよ」

「そうか……おまえ、知っていたんだな?」

 開き直ったお父さんに、僕はカッとした。

「ああ、知ってるよ! 僕だけがこの家の人間じゃないってことはね」

 そう言って、僕は立ち上がった。お父さんは眉を顰め、僕を見つめている。

「……座って話そう、将司。おまえには、大きくなったら言おうと思っていたんだが……いつ知ったんだ?」

「……去年の正月、親戚のおばさんたちが来たときに、話しているのを聞いちゃったんだ」

「そうか……去年からずっと、おまえは一人で抱え込んでいたんだな。ごめんな……」

 お父さんの言葉に、僕はなぜだか涙を流してしまった。

 そんな僕を抱きしめたのは、お母さんだった。

「将司は私の子供よ! 今までだってこれからだって、他の子たちと分けて育てた覚えもない。あんたは立派なこの家の長男よ」

 お母さんの真剣な目に見つめられ、僕は黙り込んでしまう。お母さんの涙を見たのは、いつぶりだろう。

「ごめん、なさい……」

 思わず、僕はそう言った。

「謝ることはない。おまえの悩みは想像出来る。我々もまた、同じ悩みを抱えてたんだから……」

「……教えて。どうして僕だけ、血の繋がりがないのか……」

「血の繋がりはあるよ。おまえは、お父さんの弟の子供だ」

 それを聞いて、僕は目を見開いた。詳しいことは、今まで想像していただけで何も知らなかったのだ。男の子が欲しくて、僕は施設から引き取られたのかまで思っていたが、そうではないらしい。

「おまえが生まれて間もなく、お父さんの弟夫婦は事故で亡くなったんだ。おまえを私たちに預けて、友人の結婚式へ出た帰りのことだった。私たちは、おまえを引き取ることに何ら抵抗もなかったよ。弟の忘れ形見だし、おまえの本当に両親の分まで、幸せに生きてもらいたいと思っている。だから、おまえが悩むことは当然だが、私たちはおまえを他の子供たちと同じように育ててきたつもりだ。これからも、私たちはおまえの親でいたいと思っている。それだけはわかってくれ」

 そう言ったお父さんの愛が、僕にも痛いほど伝わる。

 そして今までのことを思い出した。学校行事も進んで参加してくれたし、他の兄弟たちと同じく扱ってくれた両親に、誇りを覚えた。

「ごめんなさい……」

 僕は素直にそう言った。

 途端に、お母さんの手が僕の顔を包む。同時に、お父さんの手が僕の頭を撫でる。

「わかってくれてありがとう。でもこれからも、悩む必要はないんだよ。血の繋がりだって、まったくの他人じゃない。それに、血の繋がりがなんだ。生みの親より育ての親って言うだろう? 誰がなんと言おうと、おまえはうちの息子だ」

「ありがとう……お父さん。お母さん」

 こうして、僕の反抗期は終わった。

 血の繋がりがなんだ。確かに今ではそう思う。僕は今でも、両親に愛されているという実感もあれば、兄弟たちも好きだ。

 天国にいるはずの、僕を産んでくれた両親に言いたい。僕は今、幸せです、と――。

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