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177 公園を抜けたら……

 十三歳の真実まみは、友達と会うために家を出て行った。日曜の昼下がり、春の暖かな風が吹き抜ける。

「気持ちいいなあ」

 家のすぐそばには公園がある。広くて夜は怖いため近寄らないが、今は昼間で明るい。ここを突っ切れば、待ち合わせの駅まで近い。

「ん?」

 公園に入ってすぐに、真実は違和感を覚えた。

 振り向くと、公園の入り口が歪んだように見え、その歪みは空間を捻じ曲げているように、あっという間に広がり、真実を包む。

「な、なに? なんなの!」

 思わず目を瞑った真実は、やがてそっと目を開けた。すると、思いがけない光景が飛び込んでくる。

 そこはまるで漫画のような近未来に近い光景で、高台のそこから同じ目線で、見慣れぬ一人乗りの乗り物に乗った人々が、空を飛んでいる。

 周りは同じように公園のようだが、遊具も見たことがない。

「なんだっていうのよ!」

 パニック状態の真実の頭に、何かがぶつかった。

「すみません。ボールが……」

 そう言って走ってきた少年は、真実を見て驚いた。

「あんた……人間?!」

「え? そうですけど……」

 真実は変な質問にも答えたが、目の前にいる少年もまた、自分と同じ人間に見える。

「こっちへ」

 少年はそう言うと、真実の手首を掴んで、木の茂みへと連れて行った。

「ちょっと、何処へ連れて行くのよ。離して」

「静かに。人間がいることが警察に知れたら、君は捕まってしまうよ」

「え?」

「ああ、とにかく、君を元の世界に戻さなくちゃ」

「……じゃあやっぱり、ここは日本じゃないの?」

「ニホンでもチキュウでもない。時間軸も違う別世界だよ」

 少年はそう言うと、さっき真実の頭にぶつかったボールを取り出し、収納されていた突起に触れた。すると、さっき空をたくさん飛んでいた乗り物に変わる。

「とにかく、ここから離れたほうがいい。公園にはたくさん人がいたから、きっと君は見られてる。これは一人用だけど……君はまだ子供だし、家まではなんとかなる。乗って」

「待って。あなたの名前は? 私は真実」

「マーク」

 マークと名乗った少年とともに、真実は乗り物に乗って、マークの家へと向かった。

 家は日本家屋とはいかないが、よくある西洋の家に似ている。

「さて、君をどうして戻そうか……」

「……どうして人間だと捕まってしまうの? どうしてあなたは私を助けてくれるの? どうして私が人間だとわかったの? あなたは人間じゃないの?」

「質問が多いね。人間は匂いでわかる。僕らの鼻は犬より勝っているからね。僕は君の目には子供に見えているだろうけど、実際の年齢は三八六歳。異世界の勉強をしているから、君のいる世界に興味があるのと、人間解放活動家だ。僕は人間じゃなく……アンドロイド。つまり、ロボットさ」

 きちんと答えたマークに、真実は絶句する。

「ロボット……」

「そう。この世界にも人間はいる。でも……家畜だ。もちろん、君らみたいに頭がいい人間じゃないよ、家畜用として生み出されるだけの命だ。僕らを動かす潤滑油は、人間の油が最適なのさ。でも、僕は長年の研究で、人工的な油を作り出すことに成功した。まだまだ浸透はしていないが……だから人間を殺すことはないと思っているのさ。異世界の人間は、僕たち並みに頭が良いということもわかっているし。だから僕は、君を無下には出来ないんだよ」

 真実はショックを受けたが、マークはおかまいなしに家の中を物色し、箱にいろいろな機材を詰め込んでいく。

「どうするの?」

「すまない……君をこの世界に引き入れたのは、僕だと思う。今まで何度か、異世界へ行ってみようと実験を試みて、今日こそ成功するはずだった。でも、僕が行けずに君が来た。これは僕の責任だ」

「じゃあ、あなたがあそこにいたのは、実験のため?」

「そう。だから、僕は君を元の世界に返す使命があるが……あいにくとまだ研究段階。こうして失敗の連続。そしてさっきの実験でエネルギーを使い果たしたが……なんとか別の方法を考えついたからやってみよう。さあ、行くよ」

 マークはそう言って、箱を持って振り向く。

「え、何処へ? ここは安全なんじゃないの?」

「公園に戻るんだ。あそこは一種のパワースポットだと証明されている。他の場所では空間を歪ませることも出来ないんだよ」

「そんな……」

 また危険な外へ行くのは嫌だったが、真実にとってはマークしか頼れる人がいない。

 二人が家を出ると、目の前には警察がいた。

「嗅ぎつけられたか……」

「マーク。人間の悪臭がすると通報を受けた。なにかの実験に人間を使っているのかね?」

「そうだと答えても見逃してはくれないでしょうね」

 マークは警察にそう返事をすると、真実を乗せてもう一度空へと飛び上がった。

 すぐに警察が空から追いかけてくるが、マークはどんどん引き離す。

「この乗り物は改造してあるから僕の方が早いよ。でも……下準備も何も出来ないな」

 マークは厳しい顔をしながらも、片手で運転しながら、箱の中を漁る。

「真実にも手伝ってもらわなければ。僕が合図したら、これとこれを同時に前へ投げて。本当は混ぜ合わせてからのがいいんだけど……この際、仕方がない」

「わ、わかったわ」

「公園が見えてきた。一発勝負だ。生きるか死ぬか、行くよ。サン、ニイ、イチ……投げて!」

 真実は訳もわからず、マークから受け取ったボールのようなものを同時に前へと放り投げた。

 次の瞬間、眩い光とともに、空間が捻じれる。

 捻じれた空間に眩暈や錯覚を覚えたが、真実はふと気がつくと、そこは公園の外で、見憶えのある景色があった。

「戻って……来たの? そうだ、マーク! マークは?」

 真実があたりを見回すと、足元に小指ほどの小さなロボットがあった。それはよく見るロボットの姿だが、儚げながらも動いている。

「マーク……マークなのね?」

「こっちの世界では、ずいぶん小さくなってしまうようだね。姿も……僕の声が聞こえる?」

「うん、聞こえるよ。マークが向こうの世界に帰るまで、今度は私が守ってあげる」

「ありがとう。帰っても犯罪者だ。しばらくはこっちの世界も見てみようかな」

「うん。大歓迎よ」

 真実はブラウスのポケットにマークを入れると、駅へと向かっていった。

「いけない。約束の時間に遅れちゃう」

 今日はもう、公園を突っ切ることは出来なかったが、不思議な体験とともに新しい友達が出来た真実であった。

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