176 クールな彼氏
私の彼氏はクールだ。それは彼女である私に対しても。
他の子にもそんな態度を取る彼を、私は嬉しく思ってる。だって結構モテるのに、他の子には興味がない素振りを見せるから。彼女としては、安心する。だけど……。
「え、合コン?」
彼氏と二人きりの部屋。友達からの電話に、私は彼を見た。でも彼は、気にする素振りもなくテレビを見つめてる。
「ごめん。また今度ね」
合コンの誘いを断って、私は電話を切った。
「行かないの? 合コン」
彼からそんな言葉を振られ、私は口を曲げる。
「行かないよ」
「なんで? 行けばいいのに」
「……私が合コン行ってもいいの?」
「なんで? おまえがしっかりしてればいいことだろ」
いつもこんな調子だ。彼は私に対してやきもちを焼いたこともないし、男友達と遊んでも、おまえがしっかりしていればいいことだと、お決まりの文句を言って、私を突き放す言い方をする。
「……ちょっとくらい妬いてくれたっていいじゃん」
ぼそっと言った私にも、彼は背を向けてテレビを見つめてる。
「もういい。合コン行っちゃうからね?」
「おまえの好きにしろよ」
「わかったわよ。じゃあフジ君に電話するから」
私はそう言って、携帯電話を取り出し、さっき電話を掛けてくれた友達に電話を掛けようとした。
「ちょっと待てよ、フジ?」
急に、彼の表情が曇る。
「え?」
「なんだよ、さっきの電話、フジからなの?」
そう言ったのは、電話の相手がお互いの共通の友人だからだろう。
「そうだけど」
「だったらやめろよ」
反旗を翻した彼氏に、私はムッとした。
「は? なんなの? あんたが好きにしろって言ったんじゃない」
「フジはべつだ。あいつ、手が早いんで有名なんだからな。おまえのことだって、ずっと気にかけてて……」
私はそこで、初めて辛そうにしている彼の顔を目の当たりにした。
「……相手がフジ君でも、私は浮気なんかしないよ?」
「わかってる。おまえのことは信用してる。だから、俺のために我慢なんかして欲しくなかった。でも、あいつは別。本当におまえのこと狙ってるってわかってるから……」
「なんか……おかしいよ。フジ君じゃなくても、合コンに行ったら強引な人だって来るかもしれないじゃない。それでも行かせようとしたじゃない」
混乱する私の肩を、彼は抱き寄せる。
「行かせようとしたんじゃない。でも言ったろ? 俺のために遊ぶこと我慢してほしくない。それに、どうやったって俺のものだから……誰かに見せつけたいっていうのもあるんだろうな。やきもち焼いてないわけじゃないよ」
「もう……ちゃんと言ってくれなきゃわかんないよ! 合コンなんて行くなって言ってほしいんだよ?」
「わかった。これからはちゃんと言うから……行かないでください」
優しく抱きしめられて、私はその瞬間に彼を許していた。
どんなに冷たくされても、やっぱり彼が好き。