173 一目惚れ
一目惚れって、本当にあるんだ……。
私はその人を見た瞬間、周りの世界など消えて、ただその人だけを見ていた。
「ええ? どこがいいの、あんな男。顔もスタイルも平均じゃない?」
そばにいた友達がそう言った。
「でも私……あの人が、運命の人だと思う」
なぜそう言い切れたのかはわからない。でも私は、その人が目の前を通り過ぎるまで、ただ見つめていた。
「……声掛けなくていいの? もう会えないかもしれないのに」
「だって……なんて声かけたらいいのかわかんない」
でも神様。私があの人の運命の人だったならば、どうかもう一度会わせて……そうしたら私、今度こそ声をかけるから……。
そんな神様へのお願いは、思いのほかすぐに叶った。
その日、夕食を食べに行ったレストランで、彼がボーイとして働いているのを見かけたのだ。
「これはもう、運命だわ」
そばにいた友達が言った。
「でも、やっぱりなんて声掛けたらいいのかわかんないね……」
「そりゃあね。一目惚れしましたなんて言っても、受け入れてもらえるとは思えないな。なんだ、この女って思われるのがオチよ」
「じゃあどうすれば……」
恋愛上手な友達を、私は食い入るように見つめる。
「そうねえ。私だったら客として通い詰めるか、はたまたここで働くか……」
「ここで……」
一週間後、私はそのレストランでバイトを始めた。
少しずつ近づいていく。たとえ彼に彼女がいたとしても、もっと大きな障害があっても、私はなぜ彼が運命の人だと思ったのかわかるまで、彼を近くで見ていたいと思う。
初めての一目惚れ、初めての本気の恋が、私を突き動かす。