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169 銀杏並木
「あ、ぎんなん」
小さな女の子が、そう言って走り出す。
「やめなよ。臭いよ」
同じ年くらいの女の子が、そう制止する。
「ええ。もったいない」
「じゃあこれは?」
女の子は、銀杏の葉っぱをくるくるとして見せた。
「こっちのほうが大きいよ」
「それは破れてるよ」
二人は笑って、銀杏並木を走ってゆく。
二十年後――。そんな遠い日の記憶を思い出しながら、二人の女性が銀杏並木を歩いていた。
「あ、ぎんなん」
「やめなよ。臭いよ」
どこかで聞いた台詞に、二人は笑う。
「私、秋って好きだな」
「そう? なんかどこか寂しくない?」
「そうかな。枯葉を踏む音とか、ぎんなん見つけた時とか、暖かい日差しの中で北風がぴゅーって吹き抜ける時とか、そういうのが好き」
「相変わらず変な子」
「ええ? そうかなあ」
二人の前を、小さな女の子たちが走ってゆく。
「ママ、早く!」
「早く!」
時を経てもなお、色褪せない記憶が二人に蘇る。自分たちの子供に幼き日を重ね、また二人は歩き始めた。
「あ、ぎんなん」
「じゃあ、持って帰って食べようか」
二人は笑うと、女の子たちとぎんなんを拾い始めた。