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166 哲学の仔
「僕は数えきれないほどの細胞で出来ている。目に見えない細胞が僕を作り、あなたを作り、僕の家族や友達を作っている。また宇宙へ目を向けて見ればどうだ。果てしない宇宙のそのまた果てにいけば、この宇宙なんて目に見えないほどの細胞のようなものだという。僕らが広いと思っている宇宙は、実は幾つも存在しているという。そう考えてみれば、僕らはなんと広大な時を経てここにいるのか、あなたには想像が出来ますか」
まだ小学生の男の子が、目の前の大人に向かってそう言った。
大人は口を曲げ、溜息をつく。
「君は理屈っぽくてかなわない。だが、論点をずらそうとしても無駄だよ。では君が今日、宿題を忘れて来たのには何か理由があるというのかね?」
「違います、先生。僕が宿題を忘れたのは、自然の摂理というものでしょう」
大人は男の子の頭を撫で、教室の後ろを指差した。
「後ろに立っていなさい!」
「チェッ。駄目だったか……」
男の子は仕方なく、教室の後ろに立った。