165 十年後に会おう
僕とサリーは双子の兄妹で、両親の離婚を機に、僕は父にサリーは母に引き取られた。
「ジミー!」
あの日、別れ際にそう叫んだサリーの声が離れない。
僕だって辛かった。何度も父にお願いしたが、父は女の子などいらないという。なにより、母が一人では可哀相だと言うのだ。
僕は納得出来なかったが、僕ら子供ではどうにも出来ない事実を知っていた。
「サリー。十年後に会おう。十年したら、僕らは十八歳で大人だ。そうしたら、僕は君を迎えに行く。だから待ってて……」
そうして、僕たちは無理に引き離された。
両親はお互いを干渉しないと言い、連絡先すら知らないと言い張る。そして十年経つ頃には、両親に新しい家族もいた。
「ジミー。何処に行くの?」
あの日の僕らと同じ年の男の子が、僕に向かってそう言った。僕の新しい弟である。
「……僕はこの家を出る。いいか、この家の息子はおまえだけだ。おまえはお父さんとお母さんを守ってくれ」
「ジミーは? 僕のお兄さんでしょう?」
「違う……僕はおまえが好きだけれど、僕にはもっと深く結ばれた兄弟がいる。妹を探しに行く」
「嫌だよ……ずっとここにいてよ。ジミーが好きだ! ここにいて!」
弟の言葉を背中で受けながら、僕は新しい家を後にした。
「ジミー!」
弟の声が、あの日のサリーの声に聞こえる。でも僕はもう、ここに戻ることはないだろう。
「サリー、サリー、サリー……」
なぜこんなにも求めるのか、自分でも説明がつかない。双子だからだろうか。なんとしてでも見つけ出したいと思った。もしかしたら、サリーは変わってしまったかもしれない。僕のことなんか忘れてしまったかもしれない。それでも、幸せならいい。ただそれを見届けたい。
僕は、ずっと昔に住んでいた街へと向かっていった。
サリーと母親も、街を去ったと聞いていたが、それでも接点はここしかないのだ。
でも、サリーの情報は驚くほどなく、僕は絶望するしかない。
「ジミー……? ジミーでしょう!」
その時、僕はそんな声を聞いて顔を上げた。
目の前には、僕と同じ髪色と目の色をした、同じ年くらいの少女が立っている。
「サリー……」
「ああ、ジミー!」
僕らは抱き合い、互いの顔を見合う。
「サリー。どうしてここに……」
「……ジミーは待っててと言ったけれど、私には待っている家がなかった。新しい家族も出来て、今の家に私の居場所はないわ。十年後に会おうと言ってくれたでしょう? 私、あの約束覚えているわ」
「じゃあ……今、ここに着いたの?」
「そうよ。十八の誕生日に、ここから五百キロも離れた街から飛び出してきたわ。私たちの接点は、この街しかないもの」
僕はサリーを抱きしめ、笑った。だけど、目からは涙が溢れ出す。
「さすがは双子だ。僕たちは離れていても、ずっと一緒だったんだね」
「ええ、そうよ。私たちは約束した十年後に、見事ここへ戻り、再会を果たしたんだわ」
互いの温もりが、互いの居場所を示しているようだった。
この街が引き合わせてくれた。兄妹として引き合わせてくれた。そして、十年目の約束を果たさせてくれた――。