164 Tの話
ずっと決めてた。十八になったら免許を取るって。
「おまえが免許? 絶対おまえの車になんか乗らないからな。あと、俺の車には指一本触るなよ」
そう言ったのはお兄ちゃん。相変わらず失礼な男だ。
教習所のパンフレットを見ながら、私は口を開く。
「ねえ、お兄ちゃん。ATコースとMTコースがあるけど、なにこれ」
「はあ? オートマ限定かマニュアルかだろ。おまえは絶対マニュアルなんか無理なんだから、オートマにしとけ。今時みんなそうなんだから」
「あら、そうなの? お母さんはマニュアル取っておいたほうが、後々のためになると思うけど」
横から入って来たのは、お母さんだ。お母さんも、バリバリ運転出来る。
「じゃあ、マニュアルってのにする」
「ええ? やめとけって。危ない」
「お兄ちゃん。始める前から気分削がないでくれる?」
私は口を尖らせ、MTコースに丸をつけた。
後日、私は教習所へと出向いた。校長先生という人から、軽い面接のようなものを受ける。
「君は車が好きですか?」
「まだわかりません」
「コースは決めましたね?」
「はい、マニュアルチックコースでお願いします!」
私の声が、教習所内に響き、どこからか笑い声が聞こえる。
「マ、マニュアルコースだね。わかりました。ちなみに、チックはいらないから」
「え……ATがオートマチックなら、MTはマニュアルチックかと……」
私は事態を察知し、顔を真っ赤にさせた。
※ Tはトランスミッションです。