151 キツネとタヌキ
キツネとタヌキは仲が悪い。
化かし合い、馬鹿試合。
「俺は人間にだってなれるんだ」
キツネの子供が、得意げに人間の子供に化ける。
「馬鹿キツネ! 耳がそのままケモノだぞ。僕だって人間にくらいなれるわい」
そう言って、今度はタヌキの子供が人間に化ける。
「馬鹿タヌキ! おまえは尻尾がそのまま出てる。尻尾のついたのが人間なもんか」
「なんだと!」
「やるか!」
元の姿に戻り、じゃれあうように喧嘩をする二人は、一瞬にして闇に包まれた。
「あれ?」
「これは?」
二人はあたりを見回すと、闇は一気に元通りになる。
「やった! タヌキとキツネを捕まえたぞ!」
目の前にいるのは人間の子供。どうやら人間の罠に掛かったらしく、二人はあっという間に籠に入れられ、ふたを閉められた。
「なんてことだ、おまえのせいだぞ」
「なにを? おまえのせいだ!」
狭い籠の中で醜い争いが始まったが、どれだけ相手を罵ってもここから出られるわけではない。
「仕方がない……ここはひとつ、協力しよう」
「そうしよう。じゃあまず手始めに……僕は蛇にでもなって、あの籠の蓋を開けようか」
「それもいいが、俺がカミキリムシになって、この籠を食いちぎってもいい」
だが、二人の体は何にも変身しません。
「どういうことだ!」
「きっとこれは、人間の前だからか、それともおひさまのパワーに当たっていないからか」
「どっちでもいいけど、俺たちは間違いなくピンチだぞ」
その時、蓋が開いて、子供の顔が見えた。
「さあ、おいで。今日からここが、君たちの家だよ」
そう言って、子供は自宅の外に置かれた囲いに二人を入れようとした。
その瞬間、キツネは風船に、タヌキはキツネの風船を咥えた鳥へと姿を変え、大空へと飛んで行った。
「はあ……ここまで来れば大丈夫か」
「本当に驚いた……タヌキ汁だの、ステーキだのにされるかと思った」
「見事な化かし合いになったと思わないか」
「ああ、もちろんだ。僕が鳥になって君を咥えなければ、君は今頃、あの子供に割られていたかもしれないよ」
「なにを? 俺が風船になったおかげで、君は大空に飛べたんじゃないか。その飛び出たおなかで飛ぶには無理だったろうからね」
「なにを!」
互いの肩を掴み、取っ組み合いになろうとする寸前で、二人は互いの顔を見合い、そして笑った。
「ハッハッハッハ。なにを喧嘩になる必要があるんだ。俺たちは無事に逃げ出したんじゃないか。互いに協力して」
「本当にそうだ。喧嘩なんてバカバカしい。お互いに最高の変身だった」
「今まで悪かった」
「僕のほうこそ」
二人は固く握手をする。
「でもまあ、俺の変身の方が繊細で美しいけどな」
ぼそっと言ったキツネに、タヌキが顔色を変える。
「なにを? 僕の変身のほうが正確だ」
やはり二人は、取っ組み合いを続ける。
だが、明日も明後日も、二人は一緒に居続けるだろう。
キツネとタヌキは仲が悪い――。