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149 女教師

「アナタに恋をしました」

 こんなことを言ったら、あんたは笑うだろうか。

 同級生たちの間でも定評のあるあんたは、俺たちの教師であり、年上の女ってだけで標的にされている部分もある。

 高二の春――若さだけを持て余して、俺たちは毎日を生きている。

「先生に恋とか中学で終わりだろ!」

 同級生がじゃれ合うように言い合っている言葉を遠くで聞きながら、俺はぐっと身構えた。

 そう、あんたが恋愛対象で俺を見てくれるはずがない。どう足掻いたって、俺たちは教師と生徒――結ばれることがあれば、俺は何だってしていいよ。

 だけど俺は、あまりにも空しい感情に一人絶望して、目を閉じた。

「島崎君?」

 その声に目を開けると、そこには先生がいた。

「先生……」

「どうかしたの? 具合でも悪い?」

「いえ……」

 俺は明らかに避ける形で、俯いた。

(早くどっか行けよ!)

 裏腹な思いが、俺の心でこだましている。

「島崎君……ちょっと、話そうか」

 だけど、先生は俺から去っていくどころか、腕を掴んで生徒進路相談室へと連れて行った。

「ここなら誰も来ないから……最近どうしたの? いつも思い詰めた顔して、先生心配してるのよ?」

 無防備に、先生は俺にそう話しかける。

 わかってる。それが仕事だってこと。仕事じゃなければ、放っておくだろうってこと。

「……」

 いろいろ言いたいことはあるが、それをありのままに話すことなど出来るはずがない。

 黙り込んだ俺に、先生は俯く。

「ごめんね……私、まだまだ新米教師だから。島崎君が話しやすい環境にもしてあげられてないよね。でも、悩み事があるならなんでも言って。来年は受験とかもあるし、今のうちからケアしなくちゃ。学校のこと? それとも、お家のこと?」

 目の前に座る先生が、本当に綺麗だと思った。

「……アナタに恋をしました」

 言った瞬間、後悔したが、もう遅い。

 俺はもう、目の前の先生を見ることすら出来ない。

「……すみませんでした。変なことを言って……」

 沈黙に耐えきれず、俺は立ち上がってそう言った。

「島崎君……」

「べつに、返事が欲しいとかそういうんじゃないです。返事なんてわかりきってることだし……でも、俺はべつに他に悩みがあるとかじゃないですから、もう放っておいてください。先生にどうにか出来る問題じゃないでしょ……」

 そう吐き捨てて、俺は部屋から出て行った。

 先生を困らせてしまった……ここから逃げ出したいと退学まで考えたが、それではもっと先生を困らせるに違いない。


 次の日からも、べつに俺たちの関係がどうにかなったはずもなく、そのまま月日だけが流れた。

 三年に進級する頃には担任も変わったため、交流すらない。そんなもんだ。でも、俺の気持は変わらなかった。ずっと先生を好きなまま……苦しいままだ。


「アナタが好きでした。今までありがとうございました」

 卒業式の日、青春というものに別れを告げるように、俺はもう一度先生にそう言った。

 先生は静かに笑って、俺の手を取る。

「ありがとう。好きになってくれて……私も島崎君のこと、好きだったわ。もちろん、生徒としてだけれど……」

「わかってます……」

「私ね、結婚しようと思っている人がいるの」

 そこで、俺の恋は完全に終わった。

「そうですか……おめでとうございます」

 俺は冷静を装って、そう言った。俺と先生の繋ぐ手が離れる。

「ありがとう。好きになってくれることは嬉しいし、生徒がそういう気持ちを経験してくれることも嬉しい。その気持ちを私が受け止めることは出来ないけれど、あなたがいつまでも私の生徒であることは変わりないわ。これからもそういう気持ちを忘れないで、社会に羽ばたいていってほしい」

 教師らしい言葉――どうあっても、先生と生徒の関係を超えることは出来なかった。先生は、最後までそれを教えてくれたんだ。

 俺はこれからも恋をするだろうか。でもきっと、誰を好きになっても、先生――あんたを好きになった高校生活は、いつまでも輝き続けるんだろうな。

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