148 パスタの穴
とあるイタリアの飲食店で、一人の女の子がパスタに開いた穴を覗いている。
「パオラ。早く食べなさい」
母親にそう言われ、パオラと呼ばれた女の子は、たった今まで覗いていたパスタを食べる。
「ねえ、ママ。パスタには、どうして穴が開いているのかしら」
「あら。開いてないパスタだってあるわよ」
そう言って、母親は食べていたカッペリーニを見せて食べる。
「じゃあ、どうしてマカロニには穴が開いているのかしら」
パオラは、目の前にあったマカロニを取って、穴を覗く。トマトソースが穴を塞ぎ、向こう側は見えない。
「変なこと聞く子ねえ」
「でも、物には全部理由があるのよ」
「じゃあ、パオラはどうして、パスタやマカロニに穴が開いていると思うの?」
「うーんと……」
パオラは天井を見上げて考えると、やがて驚いたように水を飲み、口を開いた。
「これはきっと、作った人の意地悪だわ。だってソースが穴に入って、しょっちゅう舌を火傷するんだもの」
パオラは火傷したばかりの舌を見せる。
母親は笑った。
「じゃあ、正解を聞いてみましょうか。あなた!」
そう言って、母親が厨房に向かって声をかける。中から出て来たのは、パオラの父親であり、この店のオーナーシェフだ。
「パオラからの質問よ」
「なんだい? パオラ」
「えっとね、パスタやマカロニには、どうして穴が開くの?」
パオラの質問に、父親は笑う。
「どうしてだと思う?」
「パパが意地悪だから!」
「ええ? どうしてそういう答えになるの?」
「パオラったら、パスタの穴に入っていたソースで、舌を火傷したらしいのよ」
母親の言葉に、父親はパオラを抱き上げた。
「うん、パオラ。それは正解」
「本当!」
「でも、パパが意地悪なわけじゃないよ。パスタの穴っていうのはね、火を通しやすくして早く調理が出来るように。それから、ソースがうまく絡んで美味しくなるように穴が開いてるんだ。それともう一つ……」
「もう一つ?」
パオラはゴクリと唾を呑みこむ。
「これは小人のトンネルさ」
「ええ!」
「小人の国で、穴の開いたパスタはトンネル工事で使われてるんだ。だからパパのこの店でも、穴の開いたパスタが一番よくなくなる。小人がちょっとずつ、工事に持って行っているからなのさ」
得意げに言った父親に、パオラの目も輝いた。
「さあ、お嬢さん。冷めないうちに召し上がれ。小人がソースの絡まったパスタまで持って行かないうちにね」
「はーい!」
その後、パオラは何度も穴を覗きながら、父親の料理を食べ続けた。小人が持って行かないうちに……。