145 おさななじみ
幼馴染みのショウちゃんは、隣の家に住んでる男の子。同じ年のため、幼稚園に行くのも、小学校へ行くのも、ずっと一緒だった。
「やーだ!」
ある日、私は涙目でショウちゃんの腕を掴んだ。そこは中学校の教室。みんな怪訝な顔でこっちを見てるけど、私はお構いなしに泣いた。
「うるせー。黙れよ、アキ!」
ショウちゃんは、そう言って私の頭を掴む。
「やだ!」
「あーもう、おまえ、中三にもなってなんなの? だから俺がからかわれるんだろ。本当、迷惑」
「ショウちゃんは、私のこと嫌いなの?」
「ああ、嫌い。大っ嫌い。おまえがいるから、俺は散々縛られてきたんだぜ。少しは俺のことも考えろよ、馬鹿!」
そう言うショウちゃんは、本気で怒ってる。
私は涙を拭きながら、俯いた。
「ご、ごめん、なさい……」
しゃっくりに似た呼吸を整えながら、私はそう言った。
「……まあ、遠くの高校行くって、言っとかなかった俺も悪いけど……」
ショウちゃんは、優しくそう言った。
ショウちゃんが県外の高校を選ぶということを、私はさっき知った。それでショウちゃんのクラスまで押し掛けてきたというわけだが、ショウちゃんの決意は固いようだ。
「本当、ショウちゃんが悪いんだよ……」
ぼそっと言った私の言葉に、ショウちゃんが反応する。
「結局、俺かよ! ってか、なんで俺がいちいちおまえに断らなきゃならないんだよ」
「ショウちゃん、大きくなったら私と結婚してくれるって言ったじゃない!」
公衆の面前でそう叫ぶ私の口を、ショウちゃんが手で覆った。でも、時すでに遅し。それを聞いていた男子たちが、指笛を拭いて囃し立てる。
「おーまーえーなー! いつの話をしてんだよ。そんなガキの頃の約束で、俺の彼女面するわけ?」
「ひどい! 私だって、今まで付き合ってって言ってきた男の子、みんなお断りしてるもん。ショウちゃんが結婚してくれるって言ったから……」
「はあ? そんな物好きな男がいるのか。まあ、おまえがどう泣き叫ぼうが、俺は高校決めたから」
ショウちゃんは、いつものように冷静な目で私を見据え、そう言った。そんなクールなところも好きだ。また、優しいところも。
「決めた! 私もその学校行く! ショウちゃんと同じところに行く!」
私は意を決してそう言った。ショウちゃんは、クスリと笑う。
「言うと思った。まあ、好きにしろよ。男子校だけど」
そう言って、ショウちゃんは教室を出て行った。
「男子校……潜り込む?」
家に帰るなり、私はどう男子校に潜り込むかを考えた。
「バーカ、アキ。ない頭で悩んだってしょうがねえだろ」
何処からか、ショウちゃんの声がした。
ベランダに飛び出ると、隣の家のバルコニーから、ショウちゃんが顔を出している。
「ショウちゃん!」
「あんま……カッコ悪いことすんなよな。おまえのことでからかわれるの、慣れちゃいるけど限度っつーもんがあるから」
「……ごめん。でも、私は本気なんだよ? 本気でずっと、ショウちゃんのことが……」
「わーかってるよ。バカ」
そう言って、ショウちゃんは私に手を差し出す。
私は意味がわからないまま、同じように手を差し出した。
すると、ショウちゃんは私の手を取り、薬指に指輪をはめてきた。
「えっ、ええっ?」
目の前のショウちゃんは、いつになく顔を赤くさせている。
「……言わないとわかんないのかよ。俺だって、アキにはずっと隣にいてほしいし、アキが告られて断ったって聞いてホッとしてる……」
「なにそれ……言わないとわかんないよ! 私、バカだし……」
そう言った私に、ショウちゃんはいつになく優しい目を向けてくれている。
「本当、バカ。でもさ、俺だってアキと離れるの嫌なんだよ。でも、高校は前から決めてたんだ。部活のことで誘われてるし、俺の夢なんだ。卒業したら、結婚しよう。好きだよ、アキ」
私は、頭が真っ白になる思いでいた。
「ショウちゃん! ショウちゃん!」
「これからは、バカなアキのために、ちゃんと好きだって言うから、今までの意地悪は許してよ」
そう言ったショウちゃんは、なんだか可愛い。
私たちは、何度も手を握り合い、そして初めてのキスをした。