142 鈴木一郎と申します
私の名前は、鈴木一郎と申します。
こんな名前のおかげで、私の人生は常に波乱を含んでまいりました。
この平凡すぎる名前は、たとえばお役所の記入例で取り上げられていたり、テレビなどでギャグとして取り上げられることすらあります。
野球選手など著名な方も同姓同名がいらっしゃり、さぞいい思いをしていると思われがちですが、私自身はそのような特技もございませんし、ただただ根暗な男でございますから、この名前と一生付き合っていくというのは、少々気が重い感じさえするのです。
また、子供の頃はまだよかったのですが、大人になってからの自己紹介では、初対面の相手が「本名ですか?」などと聞き返すことすらあるくらいです。
そんな私にも、唯一気のおける友人が出来ました。
「田中太郎でございます」
田中さんは、私と同じ苦労を背負い、私の気持ちが唯一わかってくださる方です。
そして後ろ向きだった私に、逆転の発想を教えてくれました。
今日も私は、営業先で名刺を差し出します。
「鈴木一郎と申します。名前だけでも覚えてください」
「ははは。鈴木君か。そりゃあもうすぐ覚えたよ。では、お話を伺いましょうか」
おかげさまで、営業の成績はトップクラスですが、これでもいろいろな気苦労があるのですよ。
でもその話は、また後ほど――。
全国の鈴木一郎さん、田中太郎さん、すみません……。