139 いっそ壊したい
「おまえのこと、壊してやりたい……」
僕は自分でも恐ろしいと思う目をして、綾にそう言った。
綾の体は僕に封じられ、身動き一つ出来ないでベッドの上にいる。
「やめて、お兄ちゃん。私たち、兄妹じゃない」
綾はそう言って、涙を溜めてる。
いつもなら、綾が泣けばそれで終わり。でも、今日の僕は違った。
「兄妹? 血がつながってなくても?」
そう、僕たちは連れ子同士。五年前、両親が再婚すると同時に兄妹になった、赤の他人だ。
だからといって、こんなことをして許されるはずがないのはわかっているけれど、最近、綾を狙っている男子がいるのを知り、僕はもう限界だった。
「どうしてそんなこと言うの……? 私、こんなお兄ちゃん嫌だよ」
「だったら僕を殺すか、僕の前から消えろよ! なんだよ……迷惑なんだよ。突然うちに入って来て、妹とか言われたって……僕にはおまえが、女にしか見えないんだよ!」
妹相手に滅茶苦茶を言っていることはわかってた。でももう、どうしようもなかったんだ。
綾は眉を顰めると、やがて意を決したように表情を変え、凛とした顔で僕を真っ直ぐに見つめた。
「わかった、いいよ……お兄ちゃんがそれで満足するなら……」
その目に光はなく、僕は重大なことをしてしまったのだと、改めて認識させられた。
だが、今更なんと言えばいいのだろうか。
僕は綾から離れると、背を向けた。
「馬鹿にするな! もういい……悪かった」
なんとか冷静になろうと何度も深呼吸をして、僕はやっとそう言い、家を飛び出した。
いっそ壊してやりたい。この家族というしがらみも、兄妹という関係も、綾そのものも、なにもかも……だけど僕は、ついにそれを行動に移しながらも、思い描いた最後を見ることは出来なかった。
これから、綾にどんな顔をして会えばいい?
「お兄ちゃん……!」
そんな僕を、綾が迎えに来たので、僕は目を見開く。
「な、なんで……?」
「だってお兄ちゃん、もう帰って来ないって思ったから……」
そう言う綾は、さっき僕に襲われそうになったことも忘れているかのように、僕に心配の顔を見せている。
「……馬鹿じゃねえの」
僕はそう言い、綾に背を向けた。
「お兄ちゃん。何処行くの?」
「……帰るんだろ?」
振り向かなくても、綾のほっとする顔が浮かんだ。
いっそ壊してやりたい。今もそう思うけど、僕はこの健気な妹に対して、もう少し我慢を強いられることになりそうだ。