134 魔法の座布団
「あれ。新しい座布団買ったんだ」
美紀は帰るなり、居間にあった座布団を見てそう言った。
というのも、今まで使っていたものはボロボロで、中綿すら見えている状態だ。
「お母さん、また繕って直すんだと思ってた。うん、ポップでいいじゃん」
美紀はランドセルを下ろすと、その座布団に座った。今までよりふかふかで座り心地もいい。「でも、なんで一つしかないんだろう? あ、お母さん専用にする気……?」
誰もいない居間で、美紀は想像力を働かせる。
だが、四人家族で新しい座布団はこの一つしかない。今までの座布団は、穴が開いたまま隅へと重ねられていた。
その時、家のドアが開いた音がした。たぶん、お母さんだろう。
美紀はあぐらをかいていた足を直し、座布団の上に正座する。
すると突然、座布団がゆっくりと走り出した。
「え、えっ、ええ?!」
美紀はとっさに座布団の隅を掴む。
すると、座布団はみるみるスピードを上げ、人が走る速さよりももっと早く、体が千切れるくらいまで高速で走り出した。
「キャー!」
怖いながらも、美紀はそっと目を開ける。
すると、そこはさっきまでいた居間ではなく、まるで流れ星が無数にあるような、光が流れるトンネルのような場所となっていた。
「な、な、な?」
意味がわからないが、この座布団だけは離してはいけないと思い、すでにふりおとされそうな体で、座布団を抱きしめる。
「美紀! 美紀ってば! 美紀!」
どこからか、何度もそう呼ばれ、美紀は頑なに瞑った目を開けた。
するとそこは、もとの居間である。目の前には、お母さんがいる。
「お母さん!」
「何してるの。そんなに座布団握りしめちゃって……見本なんだから貸して」
「み、見本?」
お母さんはそう言って、私から座布団を取り上げる。
「そう。座布団カバーを作ってみたんだけど、途中で糸がなくなっちゃって、今買いに行ってきたの」
「座布団カバー? じゃあこれ、新しい座布団じゃないの?」
「そうよ。ちょっと綿は入れたけどね。まだまだ使えるから」
「なんだ……」
納得しながら、美紀はお母さんに今の出来事を話そうと口を開いた。
だが、お母さんはすでにミシンを動かしていて、話せる雰囲気ではない。
「夢だったのかな……」
「うん? なにか言った?」
美紀の言葉に、お母さんが尋ねる。
「う、ううん。なんでもない……」
美紀はそう言うと、立ち上がった。
「あ、美紀。これ、美紀のじゃないの?」
すると、美紀が座っていた近くに転がっていたものを取って、お母さんが差し出した。
「え?」
見てみると、そこには石ころがある。
だが一瞬、眩い光が放たれ、だんだんと消えていった。
「なあに? この石は」
お母さんには、その光が見えなかったかのような反応である。
美紀は今の出来事を秘密にしたくなって、その石を受け取り、居間を出ていった。
「なんでもなーい」
きっとこれは、流れ星のかけら。今、体験したことは夢ではない。美紀はそう思って、その石を大事にしまっておくことにした。
日常に起こった、美紀の不思議な話。