128 ゆきめがね
ひろちゃんは、お正月だけ会える親戚の子。
私は大晦日になると、家族で青森にあるおばあちゃんの家へ行く。
そこで、年に一度会えるひろちゃんと、毎日のように遊んでいた。
「ひろちゃん、なにしてるの?」
私は外でしゃがみこんでいるひろちゃんに、そう尋ねる。
「おいで、おいで」
ひろちゃんにそう呼ばれ、私は寒い庭へと駆け降りる。
「寒い……」
「見てごらん」
寒がっている私にお構いなしに、ひろちゃんはそうやって指差す。
ひろちゃんの片手には、虫眼鏡がある。
「虫眼鏡?」
「これで雪を見てごらん」
私は意味がわからないながらも、ひろちゃんがあんまり楽しそうにそう言うので、虫眼鏡を覗いた。
真っ白な雪は太陽に照らされ、キラキラと輝いている。その中で、拡大された雪の結晶が飛び込んできた。
「わあ!」
思わず歓喜の声を漏らした私に、ひろちゃんは今度は手に雪を乗せて、虫眼鏡で見る。また違った結晶が見えた。
「都会じゃ見られないでしょ。これを見せたかったんだ」
ひろちゃんはそう言って、私に笑いかける。
私たちは時間を忘れ、その美しい形に魅入っていた。
翌日、案の定、私は風邪で倒れたが、「また来年も結晶見ようね」と、ひろちゃんに約束をして、おばあちゃんの家を後にした。
以来、その観察は毎年行われている。もちろん、完全な防寒服を着て。
都会の中でふと何か大事なものを忘れそうになった時、私はあの雪国を思い出す。
恐いくらい綺麗な雪の結晶が、今年も私を待っている。