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117 プラマイゼロの関係

 私の彼氏は、いわゆる草食系。大学で、科学だか何だか、好きな研究に没頭している。

 そんな彼とは対照的に、私はただの大学生。就職が有利だから大学に行けと親に言われたが、もう勉強なんて嫌だし、学歴社会なんてうちらの間じゃとっくに破綻してる。

「勇樹!」

 大学の食堂で彼氏の勇樹を見つけ、私は手を振った。

 彼もまた手を振り返すが、すぐに隣に座っている男子と話し始める。こんなことは、いつものこと。

「ここ、いい?」

 私は強引に、彼の前に座った。

「いいけど、今いいとこなんだ」

 彼はそう言って、隣に座っている男子と話を続けた。また勉強に関する論争が始まっている。これもまた、いつものこと。

 すっかり放っておかれている私も、そんなことは日常茶飯事で怒っていられない。告白は私からしたので、惚れた弱みってやつだ。


 しばらくして、彼が立ち上がったので、私も慌てて立ち上がる。

「勇樹。今日も遅い?」

「ああ、うん」

 生返事で答える彼に、私は不満の顔をする。

 でも、間違ったって、自分と勉強どっちを取るのなんて聞けない。私が望む答えでないことは初めからわかっている。無理にでも付き合おうと言ったのは私からで、彼がどんなに私に興味がなくても、私はそばにいたいのだ。

「そっか……」

「ごめん。来週試験だし。あんまりメールくれても返せないと思うから、暇が出来たらこっちから連絡するよ」

 彼はそう言って去っていった。

 彼から連絡を待っていたら、きっと一ヶ月でも半年でも放っておかれる気がする。さすがに私は、自信を失くした。

「それだけ私のが好きなんだけどさ……ちょっとくらいラブラブしてくれたって……」

 でも私は、彼の言う通り、自分からメールをするのはやめた。最初のうちは禁断症状。何度も携帯を手に取っては、連絡したら迷惑だと言い聞かせる。


 でも、どれだけ我慢しても、それから一ヶ月、彼から連絡があることはなかった。

 同じ大学でも、専攻が違うから会いもしない。食堂ですら会わなくなったので、きっと研究に没頭しているのだと思い、我慢した。うざい女とだけは思われたくない。


 そんな時、私は大学の食堂で、彼が知らない女の子と食事をしているのを発見し、固まった。

 途端、彼と目が合う。

「ひ、ど、い……」

 私はそう言うと、食堂から走り去っていった。

 彼が追いかけてくるはずがない。内心期待しながらも、やっぱり彼は追いかけてこなかった。

「なんか誤解してる?」

 その時、私の前に彼が立っている。追いかけてくるのではなく、なぜ目の前にいるのかわからなくなる。

「どうして……?」

「なにが?」

「だって、なんで目の前に……」

「ああ。うちの学部突っ切ると早いから」

「な、なんだ……」

 力の抜けた私を、彼がそっと抱き止めてくれた。

「連絡待ってた?」

「当たり前じゃない! もう試験終わったのに、なんで一ヶ月以上も……」

 言いながら、私は泣けてきた。

 そんな私に、彼は溜息をつく。

「ああもう。だから付き合うの嫌だったんだ。やりたい研究もおろそかになるし、絶対そうやって泣かせると思った……」

「じゃあもういいよ! 無理して付き合ってくれなくたって!」

 自分が惨めに思えて、私は彼から離れた。

 だが、すぐに彼はそれを許さず、私を抱きしめてきた。ずっと受け身だった彼が初めて起こした行動に、私は驚きに目をパチパチさせる。

「嫌だよ。おまえが待っててくれるって言ったから、僕は安心して研究が出来るんだ。でも実際、おまえと会う日とか、待ち遠しくて勉強だって手につかない時もある。勉強をおろそかにはしたくないけど、おまえと別れるなんて考えられない」

「……本心で言ってる?」

 いつになく流暢に話す彼に、私は半信半疑で尋ねる。

「当たり前だろ。こんな恥ずかしいこと一度しか言えないし。でも本当、おまえが思うよりも僕はちゃんと好きだし、理解がある彼女として感謝してる。これからも、ずっと一緒にいたい」

「でも、さっきの子は……?」

「あれは、同じ学部で同じ班の子。あっちも彼氏いるし、今日はたまたま男子がいなかったから、二人で食事してただけだよ」

「なんだ……でも嫌だ、二人きりで食事なんて」

「ごめん。メールしたんだけど……」

「ウソ!」

 私は慌てて、自分の携帯電話を見る。そこにはメールが入っており、彼から食事のお誘いのメールが来ていた。

「気付かなかった……」

「まったく。どっちもどっちだな」

「うん……でもよかった。これからも勇樹と一緒にいられるんだね」

「当たり前だろ。もう離れられるわけないし。俺たち、プラマイゼロの関係だから。つまり、もう離れられない存在。磁石みたいなね」

 彼の言葉に、私は満面の笑みで笑った。ずっと一緒にいられることを夢見て――。

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