表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/371

114 怪盗

 東京のとある商業ビルに、展示中の絵画を盗むという、今時、珍しく古風な予告状が届いた。

「絵画が盗まれたぞ!」

 まんまと盗まれた絵画を、刑事たちが追う。

 ふと、刑事の一人が追うのをやめ、一つの扉へ向かっていった。今、まさに閉まろうとしていたのである。

 扉は大きな防火壁で、その向こうにはバーラウンジが広がっている。今日は予告状が出たために、店を閉じているバーである。

「誰かいるのか?」

 刑事はそう言って、防火壁の向こうに呼びかけた。

「おっと、見つかったか」

 ラウンジの端で、マント姿の男が見えた。

「おまえ、予告状を出したやつか!」

「なかなか鋭い刑事だな。あの防火壁がさっさと閉まっていれば、気付かれることもなかったのだが……残念だ」

 流暢にしゃべっているが、男の顔はシルクハットと真っ暗なラウンジで見えない。唯一、窓から差す空の明かりだけでは、背格好すらぼやけて見える。

「今、応援を呼ぶ。動くなよ」

「じゃあ、おまえも動くな」

 そう言って、男は刑事に向けて何かを放り投げた。

「おっと、落とすなよ。それは爆弾だ」

「なんだと!」

 刑事は慌てて、放り投げられた物をキャッチする。

 キャッチしたものは、カウントダウンが始まっており、残り時間は三分しかない。応援を呼んでも間に合わないだろう。

「正確には、爆弾のリモコンだ。置き土産ってやつ」

「爆弾の場所は?」

「この部屋の何処か」

「クソッ。解除しろ!」

「もう無理だ。時間もないしな。ただし、勇敢な刑事さんに教えてやろうか。そのリモコンは、無理に壊そうとすると爆弾と連動して爆発する。中には二本のコードがある。一つが当たりで一つが外れ。外れたら爆発する」

 そう言って、男は非常口のドアを開ける。

 途端、物凄い風が吹き込んできた。

「逃がさないぞ!」

「命が惜しくないのかい? このビルにはまだ数えきれないほどの人間がいる。しかも、倒壊したらもっと被害が出るだろうな。あんたが二分の一の確立に掛けて解除するかい? どのみち時間切れで爆発する」

 刑事はそれを聞いて、ラウンジのレジ付近にあるハサミを掴むと、リモコンのカバーを開ける。

「どちらかが当たりということは、当たりを切れば爆弾も連動して止まるってことだよな?」

 刑事の言葉に、男はにやりと笑いながら、まるで刑事の行く末を見守っているかのように、その場から動こうとしない。

 だが、刑事は男の存在など忘れ、爆弾処理に徹することにした。このままでは、多大な被害が出るどころの話ではない。

「赤か黒か……どっちだ!」

 コードはどこに繋がっているのかわからない。勘で切らねばならないということに、刑事は冷や汗を書く。

「赤か黒か。赤か黒か……」

 その時、妻が好きな色を思い出した。

「赤だ!」

 その決断を出したのが、爆発のカウントダウン三十秒前。

 汗を握りながら、刑事は赤いコードを切った。

「パァン!」

 男の言葉に、刑事は飛び上がるほど驚いた。だが、爆発はしていない。

「やっ、た……?」

 だが、見るとカウントダウンの数字が止まっていない。

「止まってない? 嘘だろ!」

 もう選択の余地はなかった。刑事は、もう一方の黒いコードも切る。

 すると、液晶の数字が消えた。

「ど、どういうことだ? 誤作動か?」

 刑事が非常口を見ると、男は何処からか垂れているハシゴに掴まっている。

「誤作動じゃない。それは……ただの時間稼ぎだよ。ヘリが来る時間より早く着いたからね。本当は爆弾なんかないから安心しろ。しかし、今日は楽しかった。じゃあな」

 男はそう言って、ヘリコプターに収容され去っていった。

「クソ! 時間稼ぎだと? なめやがって!」

 刑事はそう言ったものの、極度の緊張で床に座り込む。

 ふと、カウンターの上に、何かが置かれているのが見えた。

 立ちあがって見てみると、そこには今日盗まれた絵画がある。

「どういうことだ? あいつ、なんのために……」

 首を捻りながらも、刑事は絵画を持って戻っていく。

 絵画はすり替えられた様子もなく、傷も付けられていなかったが、手紙が添えられていた。


“警察諸君へ。鬼ごっこは終わり。私を捕まえられなかったので、私の勝ちです。さて、この鍵は何処の鍵でしょう?”


 手紙と一緒に添えられていた鍵は、後日、銀行の貸金庫の鍵ということがわかった。

 中に入っていたのは、怪盗が盗んだ絵画と同じ物。しかも、金庫の中の絵画が本物だという鑑定を受け、世界は震撼し、そして怪盗は英雄として囃し立てられた。

 それ以後、怪盗は姿を現さないが、時々、偽物の宝石が本物とすり替えられたりしている――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ