113 遠距離恋愛
遠距離恋愛なんか、続くはずなかったんだ……。
高校三年生の夏、私はそれを痛いほど感じていた。
彼と付き合ったのは、ちょうど去年の今頃。一つ上の先輩は、同じ部活の先輩でもあった。
意気投合し、彼から告白をされた。
でも今年の春、彼は学校を卒業と同時に、東京の大学へ旅立っていった。
私は遠い地方に取り残されたまま、毎日が寂しい。
「東京なんて、近いもんだよ。大丈夫。離れてても大好きだし、浮気だって絶対しない」
彼はそう言ったけど、私は内心、不安いっぱい。
もちろん彼のことが好きだし、浮気なんてしようとも思わない。それでも、気軽に行ける距離でもない場所に、私はうなだれた。
「毎日電話するよ」
そう言っていたけど、電話どころかメールすら、最近は毎日じゃなくなってる。
毎日コンパがあると言っていたのを思い出し、嫉妬すら覚えた。
「もうすぐ夏休みか……」
一人きりの帰り道。前は彼と一緒に帰ったけど、その彼もいない。ただ機械的に往復する通学路が、一人でも平気になった自分がいる。
「まゆ」
突如として、私の名を呼ぶ声。私は顔を上げた。
「えっ……」
私は、幽霊でも見るかのように、目の前にいる人物を凝視する。
そこには、思い描いた彼がいる。
「どうして……?」
「帰ってきたよ」
私の疑問に、即座に彼が答える。
「び、びっくりした……」
「大学はもう夏休みだから。ごめんな、寂しい思いさせて。でも、しばらくこっちにいるから許してよ」
今までの不満や不安が一瞬にして消えたように、私は涙とともにすべてのことを洗い流した。
「会いたかった……会いたかったよ!」
私の身体を、彼がしっかりと抱きしめる。
「ごめん。でも俺だって同じだよ。もう離したくない。離れたくない……」
「でも、また行っちゃうんでしょう?」
「うん。でも、今度の休みはおまえが来いよ。バイトして招待してやるから」
「本当?」
「時間は限られてるけどさ。今でもおまえが好きだから。いられる時は、一緒にいよう」
寂しいけど、不安だけど、会った時はそれをすべて拭ってくれる。それに、私たちはお互いが大好きだから、きっと関係が壊れることはないんだと信じてる。
遠距離恋愛……なんだかんだで、今も続いてる。