107 落とし物
暗い性格の僕は、今日も下を向いて歩く。時々、小銭を拾うこともあるし、友達がいないのもそんなに嫌なことじゃない。
ある日、僕は道端で腕時計を発見した。砂だらけだが、まだちゃんと動いている。
昔から拾い癖のある僕に、お母さんは怒るけど、その癖は直っていない。
僕はその腕時計を拾うと、ランドセルの中へと押し込み、家へと帰っていった。
腕時計のことなどすっかり忘れ、僕はいつも通り、帰るなりゲームをし、お母さんに怒られ宿題をし、食事を食べて風呂に入り、またゲームをする。
そうしたところで、明日の準備にランドセルを開け、僕は腕時計のことを思い出した。
「そうだ、拾ったんだっけ」
僕はランドセルから腕時計を出すと、砂だらけになっている腕時計をティッシュで拭く。
「動いてるのに、時間ずれてる」
夜にも関わらず、時計は四時を示している。僕は時計の竜頭を巻くと、ハッとした。
僕のベッドに、人が寝ているのだ。
「うわあああ!」
そう叫んで、僕はパニックになった。でも、寝ている人は起きようとしない。
ふと、手に持った時計を見つめた。時計は、僕が竜頭を巻いたせいで、六時を指している。
「もしかして……この時計が?」
僕は半信半疑で、もう一度竜頭を巻いた。
そしてふとベッドを見ると、そこに人は誰もいない。代わりに、ランドセルがなくなっていることから、朝で登校していったのだと悟った。
「さっき寝ていたのは僕か……それで、今は学校に行っている……? じゃあ、この時計は時間を進められるのか?」
僕は今度、時計を逆回しにしてみた。
すると、一階から僕とお母さんの声が聞こえる。会話の内容から、今日の夕食の時間だろう。
様々な不思議現象に説明をつけ、僕は顔面蒼白になった。
「どうしよう……僕はもう一人いるのに、僕はここにもいる……帰り方がわからない!」
そう言った時、僕はふと思い立って、時計を反対回しにして外へと飛び出した。
向かった先は、時計を拾った場所だ。拾った時刻より前に行き、誰が落としたかを見極めればいい。
そう思って茂みから見ているものの、時計はまだない。
「どうしたんだ? そろそろ下校時刻で僕が通るのに……」
僕は業を煮やして、茂みから見張るのをやめ、今後のことを考えようと、道の真ん中をぐるぐる回る。
その時、物凄い衝撃とともに、僕の体は空高く舞った。
僕の体を飛ばしたのは車だった。僕は車に引かれたのだ。だがその肉体は、跡形もなく消えた。僕の存在が、最初から魂だったかのように、そこに肉体らしきものは一欠けらも残っていない。僕は晴れて、一人になったのかもしれない。
だが、僕の思考は僕だけのものであるから、もう一人の僕と一緒ではないんだなと、思い直して諦めた。
それから数分後、昼間の僕が通りかかり、僕が落とした時計を拾って帰っていった。
「頼むから、この悲劇を繰り返さないでくれ、僕……!」
祈る気持ちで、僕は僕を見つめている。