101 わたしがいる
私は不思議な夢を見た。
いつものように家の中で仕事をし、食事をし、トイレヘ行き、仕事に戻る。
私の仕事は売れない物書きで、細々と生計を立てている。妻もいるが典型的な古い日本の女で、私の一歩後ろを歩くような、いじらしい女だ。
ある日、私は妻との食事を終え、仕事場である四畳半の書斎へと入っていった。
そこで私は、不思議な体験をするのである。
書斎の机の前には、男の後ろ姿がある。背中の曲がり具合、伸びきった頭の具合から、それが自分だと認識するのに、そう時間はかからなかった。
どういうことだ。誰かが私の変装をして脅かそうとしているのか。とっさにそう思ったが、私にそのようなひょうきんな友人などおらず、だいたい脅かす意味がない。かといって、妻は今も台所で、洗い物でもしているようだ。
そうか、これは夢なのか。
私はそう思うのと同時に、意識でも失ったかのように、一瞬クラッとよろめき、次の瞬間には、机に向かっていた。
やはり先程のものは私で、もちろん私も私である。どうやらうたた寝でもしていたのかな。
私はそう思って、持前の片頭痛のある頭を押さえ、筆を執る。
それから数日後、私は妻の泣き叫ぶ声を聞いた。どうやら私は死んだようだ。
だがどうしたことか、私は先日のように書斎の入口に立ち、倒れる私とそれに駆け寄る妻の姿を、ただぼうっと眺めていた。
私は死んだはずなのに、なぜ私はここにいる。思考もある。それともまだ息はあって、私の魂だけがここにあるというのか。なんにせよ、おかしな話である。
そうか、これは夢だな――。
私はそう思うのと同時に、今度こそ意識を失い、そしてもう目覚めなかった。