イースターエッグハント ―1―
テラス席の間を抜け、季節の花が咲く庭園を通り、鉄のフェンスの扉をくぐる。そこから少し進むと、森の入り口に辿り着く。奥へと目を凝らしてみたが、陸の姿は見当たらない。
「どうしよう……」
公園の中の森だから、そこまで深くはないだろうと高を括っていたが、思ったよりも鬱蒼としていて、咲は戸惑った。こんもりとした木々が太陽の光を遮り、森の奥は暗く沈んでいる。
大人でも入るのを躊躇うような森だ。子供の陸からしてみれば、異界のように見えるかもしれない。
咲はゴクリと唾を呑み、森の中へと足を踏み入れた。
ぼやぼやしている間に、陸は森の奥へと進んでいくかもしれない。カフェに戻るという選択肢はなかった。
「陸くーん」
咲は声を上げながら、森の中を走った。ヒールの低いローファーとはいえ、整備のされていない道を走るのは辛い。
それでも幸いなことに森の中は一本道だ。これなら迷うこともないし、すぐに陸も見つかるだろうと思った。
なのに、気づくともう十分以上、森の中を進んでいる。それでも陸は見つけられない。
幼い子供の足だから、そこまで遠くに行けるはずはないのだけど、と咲は訝しんだ。
もしかして、とふいに高木の意地の悪い笑顔が思い出される。
――騙された?
そんな考えが頭を過ぎった。
そんなわけないでしょ、と咲はすぐそれを否定する。咲を騙しても、高木には何のメリットもない。
暗い森を進むうちに疑心暗鬼になってしまっている自分が情けなかった。
大人の自分でも心細くなるのだ。小さな陸の心情を思うと、咲は居た堪れなくなった。
一本道だと思っていた森の道は、目の前で二手に分かれた。
一つは高台へと登る石造りの階段。もう一つはなだらかな下り坂。
迷った結果、咲は高台へ向かう石造りの階段を登ることにした。
階段は柵や手すりがなく、足を踏み外しでもしたら、大怪我を負う可能性がある。万が一、陸がこの道を選んでいたら――
早く陸を保護しなければ。
岩を削り出した階段を、出来るだけ急ぎ足で進む。息は上がり、陸に呼びかけようとしても掠れた声しか出ない。
「痛っ」
おまけに、ローファーでデコボコの道を走ったから、靴擦れができているようだ。
それでも陸のことを思うと、歩みを止めるわけにはいかなかった。
しばらく階段を登ると、赤い反り橋が見えた。どうやら、階段はそこで終わりらしい。赤い反り橋は滝を跨ぐようにかかり、森もその部分だけは開けていた。
あそこなら、辺りの様子を確認することができるかも。
咲は反り橋に立ち、周辺を見渡した。橋の先は行き止まりになっていて、その手前に小さなお社があるが、そこに陸の姿は見えなかった。
滝のほうに目を向けると、水の落ちた先には小さな滝壺と、そこから続く細い川が、平坦な芝生の公園へと流れていた。下り坂の方を進むとあの辺りに出るのだろう。咲は橋から身を乗り出し、芝生を眺めた。しかし、陸はおろか、他の人影すら見えない。
――やっぱり騙されたのかな。
それならそれでいい。陸くんの身に危険がないのなら、騙されたって全然構わない。それよりも下の川に落ちたりしていないか、と別の不安が頭をもたげた。
とにかく、急いで川を確認しないと。
咲は今来た道を引き返る。が、慌てるあまり滝で濡れた地面に足を取られ、階段を踏み外した。




