二つの結晶
空間の中央に浮かぶ光の台座。
その上に、無数の淡い光球がゆっくりと回転していた。どれも同じ輝き、同じ大きさ。だが、それぞれが放つ気配は微妙に異なり、ケイスケにはそれが「何か」を選ばせようとしている圧力のように感じられた。
「これが……能力の付与、か」
ケイスケは小さく呟き、震える指を伸ばした。
触れた瞬間、台座全体が一瞬強く光り、ほとんどの光球が霧のように消え去った。
残ったのは、たった二つ。
一つは深い青に輝く球。もう一つは、黒く底の見えない闇のような球。
「……え?」
リリエルが静かに口を開いた。
「選ばれたわね。門田ケイスケ、あなたの魂が共鳴したのはこの二つ」
彼女は淡々と、まるで既定の台詞を読み上げるように続けた。
「一つ目は『無限魔力』。あなたの魔力総量は無限であり、回復速度も無限。どのような魔法も、どれほど巨大な規模であっても、消費はゼロ。即時発動、無詠唱、魔力枯渇という概念があなたには存在しない。これにより、あなたは理論上、この世界のあらゆる魔法体系を完全に掌握し、行使できる」
ケイスケの目が見開かれた。
「無限……?待って、そんなの――」
リリエルは言葉を遮るように、もう一つの球に視線を移した。
「二つ目は『概念剥奪』。あなたが対象を認識し、『剥奪する』と望めば、その対象から任意の『概念』を一つ完全に奪い取ることができる。例えば『炎』という概念を剥奪すれば、この世界から炎という現象そのものが消える。『毒』『痛み』『死』『時間』『重力』……概念の範囲はあなたの理解が及ぶ限り無制限。剥奪された概念は、あなたが望まない限り二度とこの世界に還ることはない」
ケイスケは息を詰まらせた。
頭が回らない。
無限の魔力。概念の剥奪。
どちらも、冗談のように強すぎる。
「……そんなの、ありえないだろ。俺なんかに、そんな力が」
リリエルは表情を変えず、ただ淡々と告げた。
「ありえない、という感覚は理解できる。だが、あなたの魂がこれを選んだ事実は覆せない。この二つの加護は、あなたをこの世界において、ほぼ絶対的な存在にするだろう」
ケイスケは後ずさりそうになりながら、声を絞り出した。
「待ってくれ。こんなの、俺が扱えるわけ――」
「時間よ」
リリエルが静かに手を上げた。
「説明はこれで終わり。あなたはこれから、私が定めた異世界へと送られる。そこは剣と魔法が息づく世界。魔王の脅威が迫り、人類が存亡の危機に瀕している。あなたがどう生き、何を成すかは、もはや私には関係ない」
空間が揺れ始めた。
足元が再びぱっかりと開き、黒い渦が広がっていく。
「待て、リリエル!まだ――」
「さようなら、門田ケイスケ」
女神の声は最後まで感情を帯びなかった。
「あなたの物語は、ここから始まる」
次の瞬間、ケイスケの身体は光の奔流に飲み込まれた。
無限の魔力を宿し、概念を奪う力を与えられたまま、
彼は異世界へと放り出された。




