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神話の始まり  作者: 一宮 沙耶


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6話 空き巣

私は、今日起きたことが多すぎて混乱し、何も考えられずに武蔵野警察署を出た。

三鷹の駅では、この時間だと自宅に向かう人達で溢れている。

でも、涙が溢れる目には、人々が重なり、街灯とともに幻想の世界にいるみたい。


一駅なのに、吉祥寺の自分の部屋に戻る中央線の電車の中で涙が流れ続けた。

今頃になって涙がでるなんて。


新宿方面は、出勤時は満員電車でも、20時を過ぎた今では人は少ない。

むしろ、居酒屋とかに行っている時間なのかもしれない。

だから、私は目立っていた。


周りの人たちは、何があったのかと心配そうに見ている。

でも、精神不安定な女性に声をかけて刺されたりしてもと警戒し、誰も声はかけない。


なんとか自宅に戻る。

そして、ドアを開いたときに時間が止まった。

私の部屋が荒らされ、泥棒が入ったとわかったから。


私はすぐにさっきの刑事さんに連絡を入れる。


「さっそくどうしたんですか? こんな夜遅くに?」

「今、家に戻って来たんですが、私の部屋に泥棒が入ったようで、荒らされているんです。」

「お一人でお暮しですか?」

「ええ。」

「まだ、犯人が部屋にいたら危ないですから、外に出て私たちを待っていてください。ご自宅は先ほど記載いただいた吉祥寺ですね。5分ぐらいで行けると思います。おちついて待っていてください。」


道路で待っていると、すぐに、さっきの刑事さんが現れ、部屋を調べ始めた。


「何か探していたようですね。佐伯さんの事件といい、この事件といい、犯人は、おそらく佐伯さんの持ち物を盗もうとして殺害し、それでも見つからなかったから、三崎さんが持っているのではと思い、この部屋を探したのだと思います。ちょうど、1週間の海外出張で戻ってこないということも調べて知っていた可能性があります。しばらくは危ないからホテルでお過ごしください。」


何が起こっているのか理解ができないまま、時間が過ぎていく。

ついこの前まで、この部屋で平穏に光莉と過ごしていたのに。

光莉の笑顔と温かみが脳裏に蘇る。


「また、申し訳ありませんが、この部屋に監視カメラをセットさせてください。数日、犯人が来なければご連絡しますので、それ以降、ここに戻ってくればいいと思います。まあ、かなり探したようだから、もう来ないと思いますが・・・。」


吉祥寺にいるのは危ないと言われ、しかたがなく、三鷹のホテルに宿泊することにした。

武蔵野警察署から歩いて10分もしないシティーホテル。


そういえば、刑事さんは、私の通帳と印鑑は手を付けられていないと言っていた。

犯人は、1億円じゃないとすると何を狙っているのかしら。


光莉は、優秀な研究者だとしても、それ以外は、ごく普通の女性。

殺されるほどの何かを持っているはずはない。

でも、私に秘密にしていたことがあったから、何かあるのかもしれない。


それとも、私が狙われていたの?

そんなはずがない。

私は、ただの商社のアシスタント。


ビジネスのことなら、上司の方が狙われるはず。

でも、秘密にしなければならないようなことがあるとは思えない。


シャワーを浴び、ベットに入る。

ベトナムから帰ったばかりで疲れているはずなのに、目は冴えている。

朝まで一睡もできなかった。


会社には、親友が亡くなり、部屋も荒らされ、しばらく休むと連絡を入れておく。

自分の家にも帰れない。


これまで忙しくて、この辺りを歩いたことはなかった。

土日は光莉と家で一緒に過ごし、平日はずっと会社にいたから。

だから、自宅の近くにある成蹊大学に、初めて散歩に出かけてみた。


大学に向かう道路では、学生達が大勢、楽しそうに歩く。

そんな平和な世界が私の家の近くにあったなんて、これまで気づかなかった。

銀杏が色づくころ、光莉とこの道を歩きたかった。


コンビニに入ると、光莉の顔の写真が載った週刊誌が目に入る。

光莉は研究者とは違う、裏の顔を持っていたと書かれている。

この業界では有名な研究者でありながら、夜はキャバクラでアルバイトをしていたと。

そして、キャバクラに出入りする暴力団のお金を盗み、殺されたと。


どうして、そんな嘘ばかりを書き立てて、光莉の尊厳を傷つけるの。

光莉はそんなことをしていないし、お金にも困っていない。

頻繁に私の家で過ごしていて、そんな気配もなかった。全くのでたらめ。


そう思うと、また、目に涙が溢れる。

光莉が死んだ理由を突き止めないと。

警察が捜査しているけど、私は私で突き止めたい。


でも、光莉はどうして大金を私の銀行口座に振り込んだのかしら。

光莉の部屋は小さくてみすぼらしいと言っていたけど、どうだったのかも分からない。

もしかしたら、殺されることに気づいていた?


でも、光莉と殺人との繋がりは全く思い当たるところがない。

いつも優しい光莉。常に、誰かの幸せを願って明るく振る舞っていた。

どこにも、殺人と接点なんてない。


公園の葉は落ちていく。

冷たい風が頬に吹き付ける。

もう冬だもの、当たり前。


ホテルに戻ると、支配人という方が出てきて私に出て行って欲しいという。

感情の起伏が激しく、しばしば涙を流す私が見られていたから。

このホテルで自殺されては困るということなのだと思う。


私は、親友が殺害され、自宅にも戻れないことを伝えた。

そして、今は悲しいけど、自殺なんてことはしないと約束した。

信じてもらえたかはわからないけど、しばらく宿泊することを認めてもらう。


でも、やっぱりおかしい。

光莉は、死ぬことを予見していたに違いない。

何があったのかしら。


昨晩一睡もできなかったから体力に限界が来ていた。

ホテルの部屋に帰ると、シャワーも浴びずにベットに倒れる。

今日は朝から何も食べていないのに、空腹なんて感じない。


ベッドの中で、光莉と温泉旅行に行った時の夢を見ていた。

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