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神話の始まり  作者: 一宮 沙耶


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5話 失踪

光莉と仲良く過ごしていたのに、ある日を境に、いきなり光莉と連絡が取れなくなった。

色々話したけど、Line以外の連絡先は、光莉が嫌がっていたから聞いていない。

Lineでしか連絡したことがなくて、住所とか、職場とかを知らなかった。


Lineにメッセージを送っても、通話をしても音信不通となる。

その他に連絡する方法が見当たらず、住所を聞いていなかったことを後悔する。


連絡が取れなくなるなんて考えたこともなかった。

また、光莉は自宅や職場を知られるのを嫌っていた。

でも、光莉が私と連絡を断つ可能性なんていつでもあった。


最後に会ったときは、別に気分を害したような素振りはなかった。

いえ、何か気に障ることを言って、光莉がそれを表情に出さなかっただけかもしれない。

でも、二人の関係がそんなに簡単に壊れてしまう気がしない。

光莉の身に何かあったのではないかしら。


光莉がどんな仕事をしているのかとかも聞いたことない。

いつも私の話しばかりしていたし、光莉は話したがらなかった。

吉祥寺の近くに住んでいるらしいけど、吉祥寺も広い。探しようがない。


そんな時、会社の仕事でベトナム出張に出かける。

今の会社では、私は顔採用だったのだと思うけど、仕事も成果をあげている。

それが評価されたのか、上司が計画するベトナムビジネスに参加して欲しいと言われる。


ホーチミンで、6泊し、小売店を展開する大手会社とのアライアンスを交渉する。

市内は、バイクに溢れていることには驚いた。

でも、思ったより、住民の購買意欲は高く、これなら日本から進出する価値はありそう。


今日は、日本に帰る日。

タンソンニャット国際空港で飛行機を待っている時だった。

私のスマホが鳴る。


電話に出ると警察だという。


「あなたは、三崎 朱莉さんですか? 私は武蔵野警察署の者です。」


干からびたような男性の声がスマホの奥から流れてくる。

空港での便名のアナウンスが並行して耳に入ってきて、よく聞こえない。


「ええ、三崎ですが、警察がどういうわけで私に電話をしてきたんですか?」

「実は、佐伯 光莉さんが、2日前にお亡くなりになり、三崎さんが唯一の友達だという情報が入ったもので。」

「光莉が亡くなった? そんなわけないでしょう。この前まで元気そのものだったし。」


信じたくないけど、何もなければ警察から連絡が入るはずはない。

ウェーブがかかった天井からの照明で明るい空港が漆黒の闇に包まれる。

そんな闇を手で払った。何かの間違いに違いない。


「今から、武蔵野警察署にお越しいただけないですか?」

「それは無理ですよ。今、ベトナムですから。」

「海外にいるのですか? 帰国はいつですか?」

「今、帰国の便を待っているところです。成田に今日の16時に到着する予定です。それから向かいます。」

「ご無理を言って申し訳ございません。一番近い駅ですと三鷹から歩いて15分ぐらいです。」

「分かりました。ところで、本当に光莉なんですか? 間違いってこともあるのですよね。」

「こちらで佐伯さんということは確認していますが、三崎さんには、それも確認いただきます。では、お待ちしています。」

「待ってください。何で亡くなったんですか?」


何があったのかしら。

光莉の生活は全く闇に包まれている。


「この前、光莉の体には、いくつもアザがあって、誰かに暴力を受けていたんじゃないかと思うんです。彼がいるとかは聞いたことはないですが、一緒に暮らしている彼氏とか、暴力をふるう男性が近くにいたんじゃないかと心配していたんです。そんな情報は入っていませんか?」

「今、分かっていることは、お越しになってからお話しします。では、今晩、またお会いしましょう。」


そういって、通話は一方的に切れた。

光莉が死んだなんて信じられない。光莉とこの前まで一緒に笑っていたのに。

でも、この前から連絡が取れなくなっている。


光莉と話せるだけで充実した生活を送れていれば、それだけでよかった。

それなのに、どうして。もう光莉はこの世にはいないの?


成田に着き、間違いであって欲しいと願い武蔵野警察署に駆けつける。

先輩には、親友が殺されたと警察から連絡があったと伝えて。


東京から三鷹に向かう電車は満員電車だったけど、周りから色彩は消えていた。

大勢の人が同じ車両にいるはずなのに、誰もいないみたいに真っ暗に感じる。


あの、いつも笑顔だった光莉はもういない? 本当に光莉なのかしら。

どうして、こんなことになってしまったの?


三鷹の駅から武蔵野警察署にタクシーで向かう。

警察署に着いたころは18:30ぐらいで、辺りは真っ暗になっている。


11月の寒い夜。真っ暗な街に、無機質に建つ建物。

死体が光莉だったらと思うと、足は地面から離れない。

でも、早く確認したくて、大きなキャリーバックを持って警察署に入っていった。


「あなたが三崎さんですか。ベトナムからお疲れさまです。佐伯さんが三崎さんのご自宅に頻繁にお泊まりになるほど、お二人は仲のいい友達だったということでいいですか?」

「はい。本当に光莉なんですか?」


よれよれの背広を着た刑事が、険しい顔で私を睨む。

若そうに見えるけど、周りを漂う空気は殺伐とし、隙はどこにもない。

刑事は初めて見るけど、こんな雰囲気なのかもしれない。


「早く、光莉か確認させてください。」

「その前にパスポートを見せてください。」

「どうしてですか?」

「あなたがいつ出国したか確認するためです。」

「私が犯人だと。」

「形式的な確認ですから、お願いします。」


私はパスポートを刑事さんに提出する。

1週間、日本にいないことを確認して刑事さんは語り始めた。


「まずは、佐伯さんかご確認ください。」


冷たい、暗い廊下を歩いていく。

廊下の電灯は、節電なのか間引かれていて、とても暗い。

古びた廊下は、これからの暗黒の時間を象徴しているみたい。


ある部屋の扉が開き、通された先には遺体が横たわっていた。

その顔を見たとき、私の時間は終わった。

光莉だけが私の希望だったのに。


でも、どうしてか涙はでない。

あとから刑事から聞いたけど、私は笑っていたらしい。

しばらく記憶がなく、刑事さんの声で我に返った。


「三崎さん、聞こえていますか?」

「え、はい。そういえば、光莉は殺されたとか?」

「ええ、2日前、佐伯さんは、吉祥寺のゴミ置き場から発見されました。何回も刺されていて、病院に搬送されたのですが、出血多量で手遅れでした。」

「電話でも言いましたが、光莉は、いくつもアザがあったんです。周辺の男性関係とか調べてください。」


ナイフで何回も刺され、吉祥寺の繁華街のごみの中で発見されたなんてびどい。

ゴミの中で死ぬなんて、光莉かわいそう。どうしてなのかしら。


私は、刑事さんにすがりつき、金切り声で叫んだ。

でも、刑事さんは、冷静に私の手を振り払い、手帳を見て話す。


「少なくとも、三崎さんは、日本にいなかったので、誰か共犯がいないとすれば殺害は無理です。ところで、三崎さんに我々が連絡したのはなぜだと思いますか? 佐伯さんは、研究で得たお金を、三崎さんの銀行口座に振り込んでいたからです。1億円もの大金を。」


光莉は、家で過ごしているからと言い、毎月5万円を私の銀行口座に振り込んでいた。

その口座に振り込んだのだと思う。

でも、そんな大金をどうして持っていたのかしら。


「1億円? 光莉は、そのお金をどこで得たのですか?」

「知らないのですか? 佐伯さんは、バイオ研究の一人者で、多くの成果を出し、製薬会社からも多くの報酬を得ていました。」

「研究者だったなんて、全く知らなかった。ただ、いつも雑談とかしているだけだったので。」


考えてもいなかったことを言われ、何が起こっているのか理解できない。

私は、その場に座り込んでしまった。


そんな仕事していたなんて知らなかった。

しかも、いつも笑顔いっぱいだった光莉は、何か、身の危険を感じていた。

私の知らない光莉がいっぱいあった。


いくつものアザが体にあったことも、これに関係しているのかもしれない。

初めて会ったあの公園で、焼き鳥屋にいたとか言っていた人に殺された?

光莉を死に追いやった人達だったのかもしれない。


「大切なお金を、どうして私の銀行口座に振り込んだのでしょうか?」

「どうしてかは我々はわかりませんが、お金の送金に対応した銀行員からは、誰かに脅されているといった様子はなかったと言っていました。」

「そう、男性関係とかなかったんですか?」

「木村さんという、研究所の同僚はいましたが、その男性も失踪しています。」

「じゃあ、その人が犯人じゃないんですか。」

「その可能性もありますが、木村さんは、行方不明になる直前に、親にメッセージを送っていて、殺されるから逃げると言っていました。佐伯さんは、何かのトラブルに巻き込まれていたんじゃないですか?」

「その男性は、殺して逃げる時の時間稼ぎで、逃げるなんて言ったのよ。光莉は、人を殺すような悪い人と繋がっているはずがないです。とっても優しい人なんですから。」


光莉に原因があったなんて考えられない。

いつも笑顔で、私に接してくれた光莉が、悪い人と関係があったとも思えない。

ずっとそばで、私を暖かく見守ってくれていた。


「ちなみに、木村さんは、周りの人たちから聞いた話しだと、とてもまじめで優秀な研究員だったということです。だいたい分かりました。今日は、この辺で終わります。何か分かったり、聞きたいことがあればご連絡します。連絡先は、そちらのスマホでいいですね。」

「ええ。光莉の遺体は、いつ返してもらえるのですか?」

「あなたは、佐伯さんの親族ではないし、遺体はご両親にお返ししますが、解剖などもあり、1週間はこちらで保管させていただきます。」

「光莉の部屋に行ってもいいですか?」


光莉の家は、本人から聞いていないけど、どんな生活をしているのか知りたい。

それが、光莉を殺害した犯人を突き止める鍵になるかもしれないから。


「今、その部屋では捜査が続いており、あなたは入れません。今日はご自宅にお帰りください。」


これまでのことを話したけど、それ以上のことは逆に教えてくれなかった。

もう、私に今できることは何もない。

ただ、光莉がいない寂しさに押し潰されるだけ。

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