3話 出会い
私は、手に触れると相手の考えている声が聞こえる。
すごく得する能力のように思えるけど、逆に、人間不信の日々を過ごしてきた。
どんな優しそうな人でも、表情からは分からないぐらい、ひどいことばかり考えている。
男性に憧れたこともあったけど、男性が考えていることは私の体のことばかり。
バストが大きいとか、どんな下着だろうかとか。
そんなんだったら、マネキンと付き合えばいい。
もちろん、子供じゃないし、エッチも男性にとって大切なんだとは頭ではわかっている。
でも、それは結果で、最初から私の体のことばかり考えている人とは付き合いたくない。
どこかに、私を内心から愛してくれる人はいないのかしら。
独りよがりで、高望みじゃないと思う。友達とか、みんな素敵な彼がいて楽しそう。
どうして、私だけ誠実な男性と縁がないのかしら。
それとも、本心を知らないからこそ、男女は仲良くできるのかもしれない。
桜の花が池の周りで楽しそうに咲き誇っている井の頭公園のベンチに座る。
周りは、みんな満開の桜を愛で、お酒も飲みながら楽しそうにしている。
目の前の女性は、彼の肩に頭を埋め、このひとときを楽しんでる。
公園で買った甘酒やビールを飲みながら。
学生達は、大笑いし、下手な歌を披露する。引っ込めなんてヤジも飛んでいる。
誰もが、自分を解放し、心から楽しんでいるのは羨ましい。
池に目をやると、水面には桜の花が映り、ボートが横切るたびに水面が揺れる。
その幻想的な姿は、私がいる世界みたい。
決して暗くはないけど、なにもかもがぼんやりして、どこに向かえばいいのか分からない。
一面、真っ白な桜の木の下で、そんなことを考えていた。
そのときだった。目の前に、キラキラと光る真っ白なワンピースが飛び込んでくる。
桜の妖精? そんなはずはない。
ほのかにピンク色の真っ白な世界の中で、ヒラヒラと真っ白な姿で飛び跳ねている。
目を見上げると、妖精ではなく、同じぐらいの歳の女性だった。
「お姉さん。元気ないじゃない。楽しまないと損よ。せっかく、桜、こんなに綺麗だし。」
「そうね。飲んでるの?」
「そう、さっきまで、仕事関係の人と、この上の焼き鳥屋さんで飲んでた。でも、男性達が、女性は席を外せとか言ったから、公園の桜を見にきたの。」
外見はワンピース姿で、上品で清楚な様子。どこかのお金持ちの家のお嬢さんみたい。
でも、ワンピースから出るカサカサした足に目を向けると、原色の真っ赤なネイルが光る。
話し方は、飾らない雰囲気で、庶民的な感じもして、何か不釣り合いな感じがした。
隠し事なんて何もなく、なんとなく心を許せそうな感じはする。
でも、外見にずっと騙されてきた私は、すぐには信用できなかった。
怪訝そうな私の顔を覗き込み、その女性は私に話し続ける。
「酎ハイ2本あるから、一緒に飲まない?」
「それもいいかもね。ありがとう。いくら?」
周りで桜の木の下で宴会をしている人ばかりだし、お酒を飲みたい気分だった。
「お金なんていいわよ。安いし。お姉さん、いくつ?」
「25歳になったばかり。あなたは?」
「同い年なんだ。なんか、大人の女性って感じね。お名前は?」
「朱莉。あなたは?」
「光莉。なんか名前、似てるわね。ところで、何かあったの?」
私が落ち込んでいるのを見て、心配になり、声をかけてきたのかしら。
ただ声をかけただけのように見えるけど、自然に気を使える女性なのかもしれない。
どうせ、もう会うこともないし、本音を少しぐらい言ってみることにした。
「別に。みんな彼がいるのに、どうして私には素敵な彼ができないのかなって考えていただけ。」
「そうなんだ。朱莉さんは、綺麗だし、男性にはモテるでしょう。」
「そんなことないわよ。」
この女性は、適当なことを言い、その場を和ませようとしているのだと思う。
人なんてそんなもの。本気で向き合うと、こちらの心が折れる。
「どんな男性が好きなの?」
「そうね、私のこと、本気で大切にしてくれる人かな。男性って、最初はチヤホヤしてくれるけど、結局、体が目当てだって人多いじゃない。」
「分かる。でも、体が目当てで始まった男性でも、何人かは、朱莉さんを大切にしてくれる人もいるんじゃないかな。」
「そうなのかな。」
言っていることは分かる。でも、私の経験は、そのことを否定していた。
でも、会ったばかりの人に、本音を言っても仕方がない。
適当に受け流しておくのがいい。
寒い冬が終わり、外にいても暖かい日差しが差し込む。
光莉は、桜の花の隙間から青空が僅かに見える光景を見上げ、ずっと笑っていた。
でも、遠くを見上げるその目には、少し不安が感じられたのは気のせいだったのかしら。
ベンチで1時間ぐらい、こんな会話をしてから、お互いにLine交換をして別れた。
帰り道で、今日のお礼のメッセージが届く。思っていた以上に几帳面な女性だと気づく。
毎日、メッセージを交わす中で、知らず知らずに、光莉のメッセージを待つ私がいた。
勤め先は、それぞれ違う場所みたいだったけど、住んでるところは二人とも吉祥寺。
だから、光莉とは、週に1回は仕事帰りに待ち合わせて飲みに行くようになる。
私が日頃の不満を話してばかりだったけど、光莉は、いつでも私の話しを聞いてくれてた。
でも、手を握り、光莉の本心を知るのは怖かった。
信用して裏切られたことがあまりに多かったから。
光莉との距離感は心地よく、光莉に裏の気持ちがあってもこの関係を手放したくなかった。
今日は、薩摩料理の居酒屋に来ていて、鶏の炭火焼きを囲み、私が話し続ける。
人に不信感があり、大学までほとんど人と話さなかったこと。
大学に入り、少しづつ人との接点を増やし、マッチングアプリも試したこと。
デートした男性を信用できなくなって、すぐに別れたという話しを光莉はただ笑顔で聞く。
そういえば、光莉の好きな男性の話しは聞いたことがない。知りたい。
「光莉、そういえば、どんな男性が好きなの?」
「う~ん。秘密にしておこうかな。」
「どうして?」
最近は、光莉が表と違う感情はないと信じてきていた。大丈夫。
私は、興味もあり、ずるいと思いつつ、おしぼりを渡すときに、光莉の手に触ってみた。
「女性しか好きになれないなんて言えない。これまでも告白したら、気持ち悪いって、ずっと嫌われてきたもの。」
光莉はレズビアンなの?
そういう人がいることは知っていたけど、周りにいるとは思っていなかった。
でも、なぜか分からないけど、光莉はそんなに気持ち悪いとは思えない。
「朱莉は上品だし、少し硬い感じもするけど、真っ直ぐに生きていて、その生き方が素敵。こんな女性と付き合いたいな。でも、どうして、私って、みんなと同じに生きられないのかしら。」
光莉に裏表がないことが分かり、ほっとする自分がいた。
でも、私は、何と言っていいか分からず、ただ光莉を見つめることしかできなかった。




