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神話の始まり  作者: 一宮 沙耶


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14話 拡散

私はプリペイド型スマホを使っていた。

そんなスマホに連絡が入る。

誰かとみると、あの殺された木村さんからだった。


私が光莉にしか教えていないメールアドレスへの連絡だった。

光莉が生前に木村さんに伝えていたんだと思う。

でも、木村さんはやっぱり生きていたんだ。

あのニュースはやっぱり私に向けた偽装メッセージだったのだと思う。


木村さんからのメールにはデータを渡して欲しいと書いある。

受け渡し方法を教えるから、今夜20時、090-3475-XXXXに電話が欲しいとあった。

これも、日本政府とかの企みかもしれない。


でも、私のメールアドレスを知っているから、木村さん本人だと信じることにした。

その晩、電話をしてみる。


「盗聴されているかもしれないから、用件だけ伝える。明日11時に、新神戸の2番線にあるキヨスクで水を買ってくれ。私は店員をしているから、お金を支払うふりしてCDからコピーしたUSBメモリーを俺に渡して欲しい。その後、神戸の街を観光すれば目立たなくて済むと思う。」

「わかった。でも1つだけ、あなたは本当に木村さんなの? 証拠をみせて。」

「指輪の文字、これでいいな。じゃあ、また。」


電話からは、木村さんの声は消え、無機質な信号音だけが聞こえる。

番号も非表示になっていた。

でも、指輪のことを知っているなら木村さんに違いない。


私は、翌日、新神戸に向かった。

これまでずっと身を隠してきたから、久しぶりに東京に近づいていく。

光莉との日々が想い起こされた。


ただ、世界中で争奪戦が繰り広げられている重要な物を持っている緊張感。

これが貧しい国々の人達を貧困から解放するために奪われてはいけないという重責感。

光莉の願いを叶えたいという希望。


これらが複雑に絡み合い、全ての人が私を殺して、これを奪おうとしているように見えた。

横に座るお母さんと笑いが溢れる女の子も、私を殺す演出なのではと。

だめだめ、私の目つきが鋭くなっている。これじゃあ、逆に目立ってしまい、逆効果。


つとめて神戸観光に行く女性を演じる。

それでも、隙を作らずに、時々トイレに行き、ついてくる人がいないかも監視する。

博多から乗った新幹線も、無事に新神戸に到着する。


到着ホームの2番線を見渡すと、右手にキヨスクがある。

誰かに監視されていないか確認するために、椅子に座り、サンドイッチを食べた。

1切れ残したサンドイッチを、このホームで食べ切り、ゴミを捨てるふりをする。


ホームで20人ぐらい新幹線から降りたけど、5分ぐらいで誰もいなくなるのを確認した。

そして、同じホームのキヨスクに向かった。

レジをみると同年代の男性がいる。あれが木村さんなのだと思う。


木村さんはわざとか、私とは目を合わせない。

私は、ペットボトルのお水を台に置き、木村さんはリーダーをバーコードにかざす。

私は振り返ったけど、誰もいない。


現金とともにUSBメモリーを木村さんに渡した。

木村さんは、表情を変えずに、私にお辞儀をする。


お金を渡す時に木村さんの手に触れる。

木村さんは、この情報を拡散して飢餓を世界から撲滅するための信念で動いている。

やっぱり、光莉が信頼し、二人で研究していた同僚。この人なら信じることができる。


私は、新幹線の改札を出て、三宮への地下鉄に向けて、軽やかに歩き始めた。

これで、私の役割は終わった。飢餓で苦しむ人々はいなくなる。

光莉の願いも成就したのだと思う。


肩の荷が下りた私は、三宮に行き、グリル一平という洋食屋に立ち寄る。

ヘレビーフカツを頼み、ワインも飲むことにした。

私の役割はやっと終わった。


でも、それは私の勘違いだった。

そんなに現実は甘くはなかった。


数か月後、驚くニュースが舞い込んでくる。

木村さんが、アフリカに向かう飛行機の中で心不全で亡くなったと。

名前は明かされていなかったけど、テレビに映った写真はあの木村さん。

殺されたに違いない。


でも、その後も、あのトウモロコシの話題は一つもでていない。

木村さんは、あの情報を渡さなかったんだと思う。


ただ、木村さんの死を聞いてから、少し気になったことがある。

どうも、後ろをつけられて監視されている気がする。

後ろを振り向くと、気配は消えてしまう。


ただ、目の殺気だけが宙を浮き、私を追いかけてくる。

整形もして、私が朱莉だと知っている人はいないはず。

いえ、もしかしたら木村さんと会った時に見られていたのかもしれない。


でも、もう私には、そんなことで怖がっている余裕はない。

光莉の夢を叶えると誓ったのだから。

それが私の生きている意味だし、光莉に喜んでもらいたい。


恐れなくてはいけないのは、このデータを貧困国のみんなに届けられなくなること。

そのために、早く光莉が言っていたポールを見つけて、データを渡さなければならない。

このデータは、欲望に塗れた人達には渡せない。


でも、昔は、何にも関心がなかった私がこんなことを考えるなんて想像もしなかった。

貧困に喘ぐ人々を救うために命も投げ出す覚悟ができるなんて。

光莉のおかげで、生きる意味を持てた。何よりも尊いものを光莉からもらった。


その後、調べていて光莉が言っていたポールが誰なのかは分かった。

アフリカの飢餓を救うための活動家で、光莉はメールアドレスも教えてくれている。

光莉が使っていたメールからポールに連絡をしてみた。


ポールからの返事があり、光莉は死んだと聞いていたがと言っている。

私は、光莉の親友で、光莉の願いを引き継いでいると伝えた。

ポールはあるサイトへのアップを提案してきた。


そこでは、ブロックチェーン技術を使い、無数の人が閲覧できて消せない。

そこに投稿すれば、誰もが自由に使えるようになるという。

世界中、誰もが見れるから、特許とかで誰かに独占されることもない。

光莉が信頼していた人。この人に願いを託すしかない。


私が殺される前に、今すぐにでもアップロードをするしかないと。

データは私のスマホに入っている。

ポールに言われたサイトに入り、アップロードサイトに2つのファイルを指定した。

あとは、このボタンを押すだけ。


その時だった。ホテルの部屋のドアが開き、ロシア人みたいな男性が入ってくる。

鍵は閉まっていたはずなのに、どうしてかしら。逃げないと。

でも、逃げ場はなく、いきなり、私のお腹を銃弾が貫く。


私は、壁に寄りかかったものの、あまりの痛さに床に座り込む。

手でお腹を押さえても血は止まらない。

それよりも、あまりの痛さに気を失いそう。


やはり、木村さんに会ったのが失敗だったのかもしれない。

木村さんはマークされていて、接点がある人は全て監視されていたのかもしれない。

神戸で尾行されていて、そこで、私が朱莉だと素性がばれたんだと思う。


各国政府は、密かに私に近づき、私が朱莉だということを調べていたに違いない。

日本政府がまず私を特定し、その情報が世界各国に漏洩したのかもしれない。

顔は変えられても、声まで変えるのは難しいから。


そして、木村さんが近づいてきた以上、何らかの情報を私が持っていると確信した。

ポールとのやり取りも盗聴されていたのかもしれない。

いずれも今更、確かめようがないから、どうでもいい。


部屋に乱入した男性は私の胸ぐらをつかみ、英語で、ありかを言えと怒鳴る。

私は、痛みに耐え、笑顔で、断ると伝えた。

彼は、そんな私の胸ぐらをつかみ、一旦宙に浮かせた後、床に投げつける。


顔は床に叩きつけられ、歯が折れたのか、口の中は血が溢れる。

でも、スマホは決して手から離さない。

私の目には、床の絨毯が永遠に広がる光景しか見えない。


彼は、再度、私の顔を手で持ち上げ、私の口に銃口を入れる。

別に話さなくても、殺した後、持ち物を調べて、情報を独り占めにするということね。

光莉と同様に、私との話し合いは諦めたのだと思う。


大量の血が流れ出し、気が遠のいていく。

手も感触がない。もうだめ。これはやばいやつ。


いえ、これは光莉の夢。かならず成し遂げないと。

私は、最後の力を振り絞りボタンを押した。

その姿を見て、彼は、ダウンロードを止めようと私のスマホを撃ち抜く。


でも、もう遅い。データは小さいから、もうアップロードされている。

あなたは失敗したの。


私は微笑み、窓の方に目を向けた。

そこには、昔の懐かしい人が私に微笑みかけている。


「朱莉、やっと私達の夢が叶ったよ。朱莉のおかげ。どんなに感謝しても、感謝しきれない。」

「光莉なのね。笑顔の光莉を見ていると落ち着く。私、光莉の夢を叶えるために、最後までがんばったの。」


もうもう体の感覚もない。


「知っているよ。私と出会ってしまったばかりに、苦労をさせてしまったわね。」

「いえ、光莉の夢を叶えることが私の生きがいになったのだから、楽しかった。逆に私が感謝したいくらい。」

「これで、世界から飢餓はなくなる。理想の世界が私達の努力で実現したのよ。さあ、もう苦しまなくていいわ。楽になりましょう。これから一緒に暮らすことができるのね。」


アフリカで飢餓に苦しむ子供たちの笑顔がみえる。

みんなが私を取り囲み、笑っている。


体から痛みは消えていく。

光莉、もうすぐそっちに行くよ。

愛する光莉と早く会いたい。


目の前から光が消えていく。

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