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神話の始まり  作者: 一宮 沙耶


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13話 メッセージ

私が安全に情報を持っていられるのはどこかしら。

政府に囲ってもらうのが一番、安全だと思う。

でも、それでは自由に行動ができない。

飢餓に苦しむ人々にこの情報を渡すことができなくなってしまう。


私は、お金にものを言わせ、整形して別人になることを選んだ。

まずは、1億円を引き落とし、キャリーバックに入れる。

もう、所在を伝えてしまうので、このキャッシュカードは使わない。

そのお金を持って、名もない整形外科に入院する。


日本政府や、海外の政府は私の行方が分からなくなり、必死に探したと思う。

でも、どこにも痕跡を残していない。


医者は、どうして整形するのか聞かなかった。

犯罪に関与していると思ったかもしれない。

お金を出したので、病院に長期間入院もさせてくれた。


私の顔は可愛いタイプだったので美人顔にする。

バストとお尻にはお腹やふくらはぎで脂肪吸引をした脂肪を入れてスタイルも変えた。

3カ月も経ち、腫れも引いたとき、鏡の前で全くイメージが変わった私がいた。

これなら、誰も気づかないと思う。


これまで、ロングスカートにふんわりとしたトップスとか清楚な服を着ていた。

今後は、タイトなミニワンピースとか着れば私とは誰も気づかないと思う。

ヒョウ柄のバックなんて持ってもいいかもしれない。

隠れるためには、逆に目立つのも1つの方策だと思ったから。


私は、退院するとき、医者に、口止め料として、手術台に加えて500万円を渡す。

そして、博多に向かった。お金はいくらでもあるからホテルで暮らせばいい。

新幹線に飛び乗り、博多に来たから、まさかここにいるとは誰も思わないはず。


そんな時、光莉と一緒に研究をしていた木村さんが殺害されたというニュースが流れる。

多くの切り傷と、最後には水の中で溺れたらしい。

光莉と違って、だいぶ拷問を受けたのだと思う。

資料のありかや研究成果を出せと言われたに違いない。


木村さんも殺されてしまった。

木村さんは長期間見つからなかった分、死体で寂しかったのかもしれない。


未だに私が狙われているということは、木村さんは何も話さなかったのだと思う。

木村さんも光莉も、飢餓を救う研究成果をお金儲けに利用されたくないと考えていた。

強い信念をもって戦ったに違いない。


ニュースでは、今日、大井町の実家でご葬儀があると言っていた。

でも、こんなに詳しく伝えるニュースなんて見たことがない。

消息が消えた私をおびき出す匂いがする。

木村さんの死もフェイクなのかもしれない。


私は、ホテルの部屋で、PCをネットから外し、光莉のCDを入れる。

そこには2つのWord文書ファイルと音声ファイルが入っていた。


Word文書は、光莉が私に初めて声をかけてくれた日にちのPWで開いた。

内容は、生物学に縁がなかった私には、全く理解できないものだった。

数式が多い。ただ、これが世界各国が狙っているものだということだけはわかった。


そして音声ファイルをあけると懐かしい光莉の声が聞こえてきた。


「朱莉、これを聞いているということは、私は殺害されたのね。ごめんなさい、先にいなくなってしまって。もしかしたら、このCDを狙って、朱莉も危ない目にあわせているかもしれない。私は、飢餓をこの世からなくすテクノロジーを実現した。今は、これを食べることで人間の遺伝子に影響がないか検証している。」


この音声を録音した時はまだ、完成されてはいなかったんだ。

でも、素晴らしい成果だと思う。よくやったね、光莉。


「こんな状態だけど、アメリカ、ロシア、中国、さらに日本政府から売って欲しいと要請を受けたの。でも、それは、食料に困る全ての国を支配するためだと最初から分かっていた。もし売ってしまえば、本当に飢餓で苦しむ国々の役に立つことはできなくなるの。だって、そういう国はアメリカ等に期待するお金を払えないでしょう。ただ、飢餓を克服するために、奴隷になるだけ。」


光莉の強い想いが語気から伝わってくる。


「アフリカ連邦からもアフリカの飢餓を救いたいと声をかけられたんだけど、アフリカの富裕層で、貧民層を搾取して今の豊かな暮らしを維持するためだとすけて見えたわ。」


人間の欲望は醜い。


「私が拒否した日から、私の部屋が荒らされたり、恐喝する人々が僕のまわりに現れたの。だから、朱莉に被害を及ぼさないために、私のことは朱莉に何も話さなかった。ごめんなさいね。」


自分のことを秘密にしていたのは、私を守るためだったんだ。

今さらに、光莉に守られていたことを実感する。


「私がもうこの世にいないとすれば、朱莉にお願いがある。そのために必要だと思うから、1億円、朱莉の銀行口座に振り込んでおいた。」


あのお金は、そのためのものだったんだ。

大丈夫、光莉の願いを叶えるために使っているよ。


「飢餓を救うために日夜活動をしているポールにこのファイルを渡してもらいたい。彼なら、必ず、このテクノロジーを飢餓で苦しむ人々のために使ってくれる。彼のメールアドレスは、paul3@maria.comだけど、メールは盗聴されるから、まずは同じ研究室の木村さんに声をかけて欲しい。彼が仲介してくれる。木村さんも、飢餓撲滅を真剣に考えている同志だから。朱莉のことは話してある。」


光莉の願いが伝えられた。

光莉、木村さんは殺されたの。直接、ポールに連絡するしかない。


まだ続きがあるみたい。


「朱莉には辛い思いをさせてしまったね。そんなはずじゃなかったの。いつも、初めて朱莉と会った日のことを思い出すわ。つぶらな瞳、風にたなびく長いしっとりとした髪、均整のとれた顔立ち、朱莉は、私にとって最高の姿だった。そして、そのあどけない笑顔、爽やかな春に飛び跳ねる妖精のようだった。本当は、私は、女性のことしか好きになれない人だったの。そして、朱莉のことを愛していた。」


こんなところで、カミングアウトなんてしないでよ。

でも、久しぶりに聞く光莉の声が頭の中で響く。


光莉がそんな人だと言うことは知っていたよ。私が隠していただけ。

やっと、本当の気持ちを言うことができたね。

これまで苦しかったでしょう。


「朱莉に一目惚れして、井の頭公園で声をかけたの。朱莉は怪訝そうに私を見上げていたわね。私は、しつこいと思われてもいいから、毎週のように居酒屋に誘った。散歩も一緒にするようにしていると、新緑に溢れる道を歩き、朱莉はどんどん明るくなっていった。」


私も光莉が大好きだった。私はいつも助けられていたよ。


「それから、毎週のように朱莉の部屋におしかけ、いくつもの夜を過ごしたよね。本当なら、こんなにも可愛い笑顔の朱莉を抱きしめたかった。でも、女性の私が抱きしめたら嫌われるといつも不安で、悲しかったの。」


今だから分かる。そんな光莉を嫌いになんてならない。

そういえば、泣いている様子も見えたけど、それが原因だったのかしら。


「研究は大変だったけど、朱莉の笑顔をみるだけで、研究の苦労なんてすぐに吹き飛んでしまう。朱莉はいつもまぶしくて、私の天使だった。こんなに幸せな時間なんて、これからないんじゃないかと思うぐらい。私は飢餓を救うために、朱莉と過ごすという本当の幸せを失ってしまったのかもしれない。」


光莉と温泉旅行に行ったことを思い出す。

私は単純に騒いでいただけだったけど、光莉は複雑な気持ちで苦しんでいたんだ。


「そう、言い忘れていたけど、アザのことで朱莉に心配させてしまったね。あれは、研究段階で、間違って、あるガスを吸ってしまったからなの。そのガスで、トウモロコシの育成スピードを加速できるのではと思って使ったんだけど、ガラス管を割ってしまい、気化したものを吸っちゃった。ただの私のミス。4日ぐらいすれば消えたんだけど、この研究のことを朱莉に言えなくて、かえって心配させてしまったね。ごめんなさい。」


間違いだったのであれば、それでいい。

そんなことは気にしていないよ。

そうだよね、暴力をふるう男性となんて光莉が付き合うはずがない。


「朱莉をこの争いに巻き込んでしまっていたら、謝らなければならないわね。でも、今更、引き返せない。お願いだから、協力してもらいたい。そして、それが成就したら、朱莉は、幸せにしてくれる男性と一緒になって、朱莉の人生を大切にしてもらいたい。さようなら。」


そこで音声は途切れた。

バカじゃないの。私には光莉しかいないのに。

私への愛が満ち溢れているメッセージに、目から涙が止まらない。

本当にバカなんだから、光莉は。

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